動画サイトHuluが売却取りやめ

米人気動画サイト「Hulu(フールー)」の売却劇が10月中旬突然幕を閉じた。同サイトのオーナー会社は共同声明を出し、「フールーは各オーナー会社にとってユニークで捨てがたい戦略的な価値があるサイトとの認識で一致した。今後はさらなる成功への道を目指し経営戦略を見直すことになる」と今年6月以来続けてきた売却交渉を取りやめることを発表した。

フールーは07年、ネットワークテレビのプライムタイム番組などを放送翌日に全編無料配信したことからテレビを持たない若者層を中心に瞬く間に人気動画配信サイトに成長。米調査会社コムスコアによれば118月の月間ユニーク・ビジター数2640万件、ページビュー数16650万件を記録している。ところが、上昇を続ける人気とは裏腹に、思ったほどの利益があがらないことに業を煮やしたオーナー側が大胆な経営改革を要求。無料配信継続を主張する同サイト経営陣との間で軋轢が生じるようになり、オーナー側は売却の検討に入っていた。

売却希望額20億㌦が提示された模様だが、ヤフーやグーグルなどIT巨大企業、さらにはアマゾンや衛星放送大手ディッシュ・ネットワークなどが入札したことが報じられている。売却をあきらめた背景について、「入札額が低かったため」などとする見方もある。しかし、真の理由は、買収を名乗り出た企業からオーナー会社に対し、「人気番組の提供を長期にわたり確約する」という要求が突きつけられたことにあるようだ。

米メディア企業の貴重な財産である番組など大事なコンテンツが、インターネット上に配信される傾向が今後ますます高まるという見方が広まっており、オーナー側には「自社コンテンツをしっかり守りたい」との思惑が働いた模様だ。フールーの有料版「フールー・プラス」の加入者が100万人に達し、今年の売上高は5億㌦と昨年のほぼ倍増と検討していることや、今年8月には日本サイト開設にこぎつけ本格的な海外展開に着手したこともオーナー会社に売却を踏みとどまらせた要因の一つになったと見られる。

フールーは、ウォルト・ディズニー、ニューズ・コーポレーション、NBCユニバーサルといった世界的な巨大メディア企業に加え、投資グループProvidence Equity Partnersが共同出資する会社だが、売却劇に際してはディズニーが積極派、ニューズが消極派と意見が大きく分かれていること。さらには、これ以上のフールー人気の拡大は、各メディア企業にとって極めて重要なパートナーであるケーブルテレビ(CATV)や衛星放送からの反発を招く恐れがあることなどから、フールーの将来像は不透明だとする見方もある。 <テレビ朝日アメリカ 北清>