専門記者が見た米広告四半世紀

  1990年代前半から2014年までの約25年間、米広告業界は目を見張るような変貌を遂げた。ニューヨークタイムズ紙で同業界を四半世紀に渡って取材してきたスチュアート・エリオット記者によれば、この間、広告業界はテレビ業界でいえばアナログ放送が打ち切られデジタル放送に移行したインパクトと同様な「驚くべきシフト」があったという。エリオット記者がこのほど退職前最後のコラムで挙げた“広告界の変わりよう”は以下の通りだ。

まず同氏が筆頭に挙げたのが、広告の多様化だ。「人種のるつぼ化」が進んだ米社会に米広告業界も呼応する動きが目立ち、例えば爆発的な人口増加を見せるヒスパニック系(母国語をスペイン語とする中南米出身)市民向けの広告出稿が目立ち、ヒスパニック広告がブームになった。

また、同性結婚が広く社会で受け入れられるようになったことを受け、同性愛者のみならず性転換者なども意識した広告が主要媒体にも流れるようになった。これらの広告主には飲料メーカー大手コカコーラや一般消費者向け製品から医療用医薬品などを手掛けるジョンソン&ジョンソンなど大スポンサーが名を連ねている。

つぎに挙げられたのが、絶対的な媒体として君臨してきたテレビの存在だ。番組を、スマートフォンやタブレット型情報端末などテレビ受像機以外のモバイル・ディバイスで視聴する人口が急増。テレビ視聴率絶対主義の見直し気分が高まったことを指摘している。

そして、過去に戻った広告法についても言及。タイムシフト視聴の増加に伴うCM飛ばし視聴の増加に対処するため、テレビ広告がプロダクト・プレースメントなどと呼ばれる60年代に多用された手法がカムバックしたと指摘している。番組中に出演者が自然な形で商品を紹介したり、セリフの中にも商品名が飛び出す広告が極めて多くなったという。

さらに、広告業界の合併劇についても触れている。WPP、オムにコム・グループ、パブリシス・グループといった巨大広告会社がさらに肥大化。”800ポンドのゴリラ“(他人の権利や法律などを無視できる腕力をもった存在)になったとしている。一方、広告主の意向を迅速かつ低予算で、しかも革新的な発想で代弁できる小規模な独立系代理店の出現も顕著になったという。2015年は大広告会社がこれら小さな代理店のような機動力を発揮することが求められる年になるかもしれない、と予測している。

<テレビ朝日アメリカ 北清>