ディズニーの不安――スポーツ放送の雄ESPNが懸念材料に

米国のエンターテインメント業界の代名詞ともいえるウォルト・ディズニー・カンパニー(Walt Disney Co.、以下ディズニー)の1-3月期の決算が発表された。
 いうまでもなくディズニーは、3大ネットワークのうち、伝統あるABCテレビジョン・グループのほか、米国内で最も充実したスポーツ放送を誇るESPNやディズニーチャンネルDisney Channelを擁する「メディア・ネットワーク」、ディズニー・リゾートを束ねる「パーク&リゾート」、老舗ウォルト・ディズニー・ピクチャーを抱える「スタジオ・エンターテインメント」、そして「コンシューマー・プロダクツ」「インターラクティブ・メディア」などのセグメントを統括する、文字通りの総合メディア企業だ。またFOXやNBCUniversalとともにHuluにも出資している。
5月9日に発表された決算によると、2017年1-3月期の売上(ディズニーは9月締めのため第2四半期にあたる)は133億4000億ドル(約1兆4940億円)に上り、前年比3%の増収となった。純利益は11%増の23億9000万ドル(約2676億円)。

主要なセグメントの四半期収益は以下のようになっている。
収入      前年同期比 営業利益
メディア・ネットワーク 59億ドル(約6608億円)+3% 22億ドル(約2460億円)
パーク&リゾート    43億ドル(約4816億円)+9% 7.5億ドル(約840億円)
スタジオ・エンタメ   20億ドル(約2240億円)-1%  6.5億ドル(約728億円)
  スタジオ・エンタメ部門は、減収となったものの、コストコントロールによって営業利益は前年比20%増となっている。一方、総売上の49%を占めるテレビ・ビジネスも決して安泰とは言えない。ESPNもDisney ChannelもABCも世帯視聴率が低下し、ABCの広告収入は3%減となっている。ことにコードカッティングによるESPNの長期的な視聴者数の減少は顕著で、2011年から2015年までの間に700万件の契約者数が減り、今年の2か月間だけをとっても100万件が解約したと見られている(’Multichannel’, 10 May.)。

また、スポーツ権料の高騰は深刻で、ESPNが今期契約した大学フットボールやNBA(National Basketball Association)の契約料が重荷となった。3月にはESPNは8000人の従業員のうち、ジャーナリストとコメンテーター約100人の解雇を発表した。四半期決算翌日にはディズニーの株価は一時2.4%も下落したが、その主な懸念材料はESPNの業績だと見られている。
 しかし、ディズニーのCEOボブ・イーガー Bob Igerは、強気の姿勢を崩していない。その理由のひとつは、契約者が減少しているとはいえ、24時間スポーツ専門チャンネルとして英語、スペイン語で多様なスポーツ放送を続けるESPNの価値は依然として高く、HuluやYouTubeなどの新顔のスキニーバンドルでもESPNは品揃えとしては欠かすことのできないチャンネルであるからだ。また、ディズニー自身が今年末からスポーツのOTTを立ち上げてstreamingを始める計画も明らかにした。

けれども一方では、Live eventとしてのスポーツは視聴者から圧倒的な支持を受けているものの、録画のスポーツコンテンツやスポーツ番組の伸びを懸念する声もあり、ESNPの今後の戦略は、盤石に見えるディズニー王国の行方を左右するおおきな要因となりそうだ。
※図はESPN Sports Networkの契約者数(単位100万人)