父親が真犯人?ケーシー・アンソニー裁判の陪審員長が明かす「無罪評決」の全貌(1)

アメリカのFOXニュースは、ケーシー・アンソニー裁判の陪審員(陪審員番号11番)で、評議の進行役となる陪審員長も務めた男性に独占インタビューしました。男性は、名前を伏せ、顔も映さないという条件でインタビューに応じました。男性がそこまで身分を明かしたがらない背景には陪審員が下した「無罪」の評決に世間から強い批判の声があがり、彼らの身の安全まで脅かされている現状があります。インタビューは、ケーシーの有罪・無罪を決める評議の中で父親ジョージ・アンソニーの「真犯人説」まで飛び出したという衝撃の内容となっています。放送後、FOXニュースの公式ウェブサイトにインタビュー内容が公開されました。

以下がその日本語訳です。

 

 

キャスター: お越しいただきありがとうございます。

 

陪審員:      こちらこそ。光栄です。

 

キャスター: あなたは陪審員11番ですね。

 

陪審員:      11番です。

 

キャスター: そして、陪審員長でもあった。

 

陪審員:      陪審員長でした。

 

キャスター:  名前は伏せてほしいと要望なさいました。

 

陪審員:     はい。ご理解ありがとうございます。

 

キャスター: 公判初日、まず検察側の冒頭陳述を聞いて思ったことは?

 

陪審員:     非常にショッキングでした。この事件をさほど詳しく追っていたわけではないので。冒頭陳述で見せらた 写真は一生忘れることができません。この事件がいかに強烈で、深刻なものか思い知らされました。

          

                そのあと、弁護側が(冒頭陳述で)我々の知らなかった事を口にしはじめたとき、衝撃が走りました。  弁護士の主張はまさに青天の霹靂でした。

 

キャスター: テレビの視聴者や傍聴席にいた人たちが見た遺体の写真にはボカシが入り、直接見ることはありませんでしいたが、あなたは直接目にしたんですよね。

 

陪審員:    はい、見ました。

 

キャスター:  もっとも見たくない写真を・・・。

 

陪審員:     ええ。見なければいけませんでした。私たちの目の前にその写真が提示されました。写真を見て、気づいたことをメモしなければいけなかったんです。非常につ らかったです。判事には、こんなことをする職業にだけは就きたくないと言いました。しかし強制的に見せられました。本当につらかった。

 

キャスター:  遺体の写真で問題になったのはダクトテープのことです。写真の遺体にはダクトテープが貼られていたんですね?

 

陪審員:    ええ、何度もこの目で見ました。議論の焦点となった頭蓋骨に貼られたダクトテープ。すべてをはっきりと見ることができました。

 

キャスター: ダクトテープは頭蓋骨の上にあったんですか?それとも遺体のそばにあったんですか?

 

陪審員:   頭蓋骨の一部に、多くの髪の毛と一緒に貼り付いていた。骨に直接貼り付いているという感じではなく、鼻の穴と口があったと思われる辺りにダクトテープがありました。

 

キャスター: ダクトテープが口と鼻を覆っていると、判断できたわけですね?

 

陪審員:    そのとおりです。

 

キャスター:  それはあなたが見た、ひとつの解釈ですよね。

 

陪審員:    はい、あくまでひとつの解釈です。


「遺体のそばにあったダクトテープはアンソニー家で見つかったものと同じ」

 

キャスター: 検察は「ダクトテープを使って窒息死させた。」と主張しています。その点で写真はどのような判断材料となりましたか?

 

陪審員:     検察はダクトテープが貼られていた箇所と、そのテープがどれだけ古いかということを我々に説明しました。私がひとつどうしても納得いかなかったのは「ダクトテープが、死んだ後に貼られた」という(弁護側の)主張です。そのダクトテープはかなり古びていたからです。

 

                ダクトテープの位置 について、遺体が置かれた直後と発見されたときでは変わってくるのではないかという点で、大きな意見の食い違いがありました。ダクトテープには髪の毛がつ いていたので、遺体がそこに置かれる前にはすでに貼られていたのだろうと推測はできました。しかし、遺体が長い間放置されたことを考えると、最初からその 箇所にダクトテープが貼られていたのかどうか、確信は持てません。

 

キャスター: 髪の毛といいましたが、頭に近い位置にあったのですか?それとも鼻と口がある位置ですか?

 

陪審員:     遺体が発見されたとき髪の毛は長いもので耳のところまでありました。それは「ヘアマット」と呼ばれる形に変形していました。腐敗とともに変形し、頭の周りで馬のひづめのような形になっていました。

 

キャスター: 髪の毛が頭の周りで輪になっていたということですか?

 

陪審員:    頭の周りとそのすぐ下あたりにも少しあったが、後頭部の根元からアゴの横辺りにかけて多くの髪の毛があった。

 

                髪の毛はすべて地面 に落ちていたので、(髪の毛のついた)ダクトテープがもともと頭蓋骨のどの部分に貼られたものなのかを判断するのは非常に難しかった。遺体の頭蓋骨にはほ んの数本の髪の毛が付いていただけでした。頭蓋骨の傍にあった髪の毛にダクトテープが貼りついていて、それがもともと顔のどの部分に貼られたものなのか判 断するのは困難でした。

 

キャスター:  つまりダクトテープは髪の毛にくっ付いていて、髪の毛が動けばダクトテープの位置も変わると?

 

陪審員:     その可能性はあります。

 

キャスター:  遺体の腐敗とともにテープの位置が変わることもあるという証言もありましたね。

 

陪審員:     はい。ダクトテープは頭蓋骨の側面に行くほど貼りついていて、口のところに行くにつれてはがれていました。その点で、意見の食い違いが出ました。

 

キャスター:  そのダクトテープがもともとどこにあったものなのか確信は得ましたか?

 

陪審員:   はい。

 

キャスター: どこにあったものですか?

 

陪審員:    アンソニー家にあったダクトテープです。

 

キャスター:  ということはアンソニー家の人が持っていたテープですね。間違いないですか?

 

陪審員:     間違いありません。非常に特殊なタイプのテープですから。オハイオ州のエイボンという町で作られたものだという“印”がテープに刻まれていました。通常私たちが使うグレーのダクトテープにはこういった“印”がありません。そのテープには数インチおきに“印”が付いていた。

 

                  ダクトテープは何度も買ったことがありますが、それと同じものを見たことがありません。ケーリーちゃんの捜索のために設置された施設のひとつを撮ったビデオ にそれと同じダクトテープが映っていました。ケーリーちゃんの写真つきのポスターを貼るために使われていました。それと、アンソニー家にあったガス缶にも 同じものが貼られていました。

 

キャスター: ダクトテープのこととか、これまでの生活では決して関わることがなかったであろうことにずいぶん詳しくなったんじゃないですか?

 

陪審員:    そのとおりですね。普段知りたくなかったことも知らなければいけませんでした。表面的にしか知らなかったことを、深く突き詰めるというか・・・。


「死因について確信など持てない。すべては推測でしかない。」

 

キャスター:  その子供が、死んだ場所からどのようにして発見された現場まで運ばれたと考えていますか?

 

陪審員:    遺体はその場所に遺棄されたことは明らかです。そこに放置されたんです。ただ子供が行方不明になった6月15日から遺体発見までの間、何が起きたのか曖昧な部分が多い。

 

                遺体がどうやって森に放置されたのか、本当に多くの憶測が飛び交っています。誰がどうやって運んだのか。明確な答えが示されておらず、不透明な部分が多い。  だからその点についてコメントはできないんです。ただ明らかなのは、遺体が森にあったということだけです。

 

キャスター:  ケーリーがどのように死んだのか確信を持っていないと?

 

陪審員:    はい、全く確信までいたっていません。

 

キャスター: どれくらい疑いをもっているんですか?

 

陪審員:     すべてが推測に過ぎません。ケーリーの死因は何通りも推測できます。クロロフォルムが証拠として出たことも確か。一方で、裏庭に出るとすぐにスイミングプー ルがあって、写真を見ると、ケーリーはひとりでドアを開けてハシゴを登ってプールに入ることができただろうと考えられます。

 

                確かにフロリダではプールで死ぬ子供が多い。でもそれが死因とは言い切れない。死因が一体何なのか、すべてが推測でしかないんです。

 

キャスター:  クロロフォルムの話が出ましたが、あなたの判断に何か影響しましたか?

 

陪審員:    クロロフォルムの作り方をインターネットで検索したという点ですが、「クロロフォルムで彼女を心をつかめ」というタイトルの写真を(ケーシーの元彼が)マイスペースとフェイスブックに掲載して、次の日にはケーシーの家のデスクトップPCでグーグル検索していたことは明らかだ。

 

               元彼が「クロロフォルム~」というタイトルの写真を載せて、次の日にはクロロフォルムという言葉を検索している。この事実が怪しいと思うのは当然です。しかし、クロロフォルムを作るための何かを飼ったという証拠がないんです。グーグル検索も3分で終えて、あとは検索されていません。

 

                もし、もう少し長時間検索していた形跡があったり、調合の仕方や、購入の仕方まで検索していたら・・・。でも、そのどれも無かったんです。クロロフォルムについては我々が持っている情報だけでは決定打に欠けます。

 

                証言の中で、他の製品の中にもクロロフォルムを含むものがあると知りました。ただそれだけでは十分ではないんです。クロロフォルムが決定的な証拠になるには不十分だったんです。

 

                車のトランクに微量 のクロロフォルムが付着していたことはわかりました。そしてグーグルで検索もしていた。でもただそれだけなんです。他のどこからも検出されていない。車の ハンドルにも、ドアノブにも付いていなかった。例え付いていたとしても、誰がどこで付けたのかがわからないんです。

 

キャスター: シンディ・アンソニー(ケーシーの母)がクロロフォルムのネット検索の話で本当のことを言っていると思いますか?

 

陪審員:     彼女が犬を心配して「クロロフィル」という言葉を検索していたという点では、さまざまな憶測があります。シンディが嘘をついているかどうか、私にははっきり とわかりません。彼女は本当に傷つき、ストレスを感じていました。いろいろな薬を服用していると聞きました。それで何度も証言台に立って・・・。

 

                しかし、クロロフォルムの検索について嘘をついているのではというのは常に頭のどこかにありました。しかし陪審員の評議の際、ほとんど焦点にはなりませんでした。

 

「父親が取った行動を理解できない。」

 

キャスター: シンディは、車から「死臭」がしたというような証言をしました。そして検察は、子供の遺体は車で腐敗したと主張していました。彼女の証言は信用できますか?子供の遺体は車の中で腐敗していたという主張を信じますか?

 

陪審員:     警察官の何人かが死体の腐臭に気づいて、他の何人かは気づかなかった。 死体の腐敗について私が疑問に思っている点はここにあります。

 

                 すべてが起きた7月のあの日(母親が通報した2008715日)、 みんなが家の玄関からではなく問題の車があったガレージから出入りをしました。それなのに、誰も死体が腐敗していることに気づかなかった。刺激臭がすれ ば、警官が気づかないはずがありません。父親も、通報前には匂いがしたと言っていたのに、このときに警官にそのことを伝えていません。

 

                死体の腐臭について 議論がなされ、何人かが匂いがしたといい、何人かが匂わなかったという。実際に車のトランクで死体が腐敗していたのかどうかといえば、それを示す証拠はあ る。しかし我々は、誰がどうやって車の中で死体を腐敗させたのかを知ろうとしていました。その車には本当にさまざまな人が近づく機会があったんです。

 

         誰がどのようにして遺体を車のトランクに置いたのか、またどれくらいそこにあったのか、わからないんです。実際に腐臭はしたのか。何人かは確かに匂いに気づいています。でも気づかなかった人もいるんです。

 

キャスター:  (ケーシーの)兄リー、母シンディも匂いに気づいたんでしたよね?

 

陪審員:    父のジョージが最初に気づきました。

 

キャスター:  その父ジョージですが、普通、自分の娘を守るであろう立場の父親が、娘を責める側に立ちました。

 

陪審員:    はい。レッカーされた車の置き場でした行動は理解できません。

 

                二人の家族(娘と孫)が行方不明になり、その後車から死体の腐臭がした。もし元警官(父親のジョージは元警官)であれば、その死体が娘か孫のどちらかだと思うはずです。

 

                しかし彼はそのまま車に乗ってその場を去った。そのことについて彼は、「この車を家に持って帰らなければいけなかった」と語りました。匂いがするにも関わらずです。ここで彼はケーシーが無事で、いったいどうなっているのか確認する電話をしていません。本当に不自然です。

 

 

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「父親と兄による性的虐待があったと信じた陪審員はいない。」

 

キャスター:  弁護士は冒頭陳述で、父親と兄のケーシーに対する性的虐待があったと主張しました。そのことを信じられましたか?

 

陪審員:     いいえ。それを証明する証拠は何もありませんでした。ですから考える余地がありませんでした。弁護士はただ「虐待はあった」というだけで、それを父ジョージ という人物の判断材料にはできません。証言台に立つ彼を見て、彼の人となりを判断しようと思いました。性的虐待があったとは思えませんでした。陪審員の多 くは同じ意見だと思います。

 

キャスター:  評議の際、性的虐待があったと信じていた陪審員はいましたか?

 

陪審員:     いいえ。あまり性的虐待についてはほとんど議論になりませんでした。ジョージ・アンソニーが取った行動、証言台に立った彼の態度などが話し合われました。

 

キャスター:  彼の行動や態度についてはどのような話になったんですか?あなた自身はどう思ったのか、そして他の陪審員はどう思っていたのでしょう?

 

陪審員:    いい質問ですね。私は彼からほんの10フィートしか離れていないところに座っていました。私は職業柄、その人がどんな人なのかすぐわかってしまうんです。父ジョージはすべてにおいて非常に都合のいいことしか覚えていない。彼は時折、(昔のことを)前日の記憶のようにクリアに覚えていました。615日 (ケーリーが家から姿を消したとされる日の前日)のことについて、事細かに話したのがひとつの例です。彼はその日に起きたことを何でも話すことができまし た。みんなが何を着ていたか、何のテレビ番組を観ていたか、何が話題を話していたかについて、何でも話すことができたんです。

 

                しかしガス缶(遺体 に貼られていたのと同じダクトテープが貼られていた)について質問が及ぶと、彼はどのガス缶なのか覚えていませんでした。彼の証言は曖昧で行ったり来たり していました。たった一枚の写真について、彼と弁護士のやり取りは堂々巡りしていました。彼は本当に都合のいいことだけを覚えているという印象でした。

 

                (彼に対して)いつ も心のどこかで引っかかる部分がありました。彼が証言台に立つたびに警戒心を抱いていたんです。父ジョージに関して、ガス缶に関して、都合のいい記憶、彼 がレッカーされた車(腐臭がしたはずなのに)家まで運んだこと、リバー・クルーズ(父ジョージと不倫関係にあったと主張している女性)との浮気のこと。疑 わしいことが多い。

 

「父親が『殺人者』であるという疑念はある。」

 

キャスター:  疑わしいというのは、彼の人格的な部分ですか?それとも彼がケーリーの死に関わっていたかどうかについてですか?

 

陪審員:      その両方です。人格的な部分で言えば、彼は嘘をついている可能性があるということ。そして死に関わっていたかについては、彼は615日にそこ(ケーリーのそば)にいたので、疑いはあります。彼は、ケーシーとケーリーが具体的にいつ出て行ったかも言えるんです。彼の言っていることが正しいのかどうか、わかりようがありません。本当に疑わしい。

 

キャスター:  父ジョージが、娘ケーシーを死刑目前まで追い詰めたとも考えられると?

 

陪審員:      ええ。はっきりと答えることはできませんが、我々がそう感じたのは確かです。父ジョージを注視すべきだと思います。

 

キャスター:  12人の陪審員で、誰かジョージを信じていた人はいましたか?

 

陪審員:     彼に対しては疑念がありました。評議の際、「総当り」の議題(すべての陪審員が参加したという意味か?)として話し合われました。

 

キャスター:  疑わしいというのは、ケーリーの死を隠匿したということか、事故死に関わっていることなのか、それとも彼が殺人者ということなのか、どれですか?

 

陪審員:     その3つすべてです。

 

キャスター: 本当ですか?彼が殺したかも知れないと?

 

陪審員:     その3つすべて。わかりません、わかりませんよ。ただ、疑念はわいた。

 

キャスター: 評議が行われた部屋でですか?

 

陪審員:     評議の際に話は出ました。評議室で何をしたのか、もう少し詳しくお話します。私はそこですべての状況を指揮した立場ですから・・・。

 

~ 続く ~

ケーシー裁判についての記事はこちら

<NY支局 山田 久>