米地上波4大ネットワークの一つ、Foxネットワークがインターネット上の番組配信に大きな方向転換を打ち出した。Foxはこれまで、人気番組『シンプソンズ』(社会風刺アニメ)(写真・右)や『Glee(グリー)』(ミュージカル・コメディー)などを放送日翌日に、ホームページや、人気動画サイト「Hulu(フールー)」などで無料提供してきたが、今後は翌日視聴を特定のケーブルテレビ(CATV)や衛星放送の加入者に制限すると発表したからだ。
米国ではネットワークのプライムタイム番組が翌日にはネット上で無料視聴できるの が当たり前になっているが、この流れに終止符が打たれる可能性もある。「インターネット上のテレビ番組配信システムに大きな変化が訪れる」(ニューヨー ク・タイムズ紙)、「テレビ番組のネット視聴に大きなシフトが起きる」(ウォールストリート・ジャーナル紙)などと、大きな注目を集めている。
Foxはとりあえず衛星放送大手ディッシュ・ネットワークと提携し、8月15日から新制度がスタートした。ディッシュ・ネットワークの加入者は、同社から発行されるパスワードなどを入力すれば、Fox.comやDishonline.comなどからこれまで通り人気番組を放送翌日に無料で視聴できる。しかし、非加入者は番組放送後8日間待たなければならない。
Foxの方針変更の背景にはペイ・テレビと呼ばれているCATVや 衛星放送事業者の存在が大きくものを言っている。米国では最近、地上波ネットワーク・テレビが自社の番組に対しペイ・テレビから再送信料を徴収する動きが 定着し始めているが、ペイ・テレビ側から「我々がお金を払っているコンテンツ(番組)をネット上に無料配信し続けることは容認できない」などと反発の声が 高まっていた。Foxはこうした声に配慮するかたちで、番組の翌日無料配信をペイ・テレビ加入者に限定することにしたのだ。ペイ・テレビ加入者に付加価値を提供することで同サービスからの離反を防ぐ目的も含まれている。
新サービスには追加料金などは課されず一見無料に見えるが、特定のペイ・テレビに加入していることが条件で、いわば間接的な有料サービスともいえる。米国ではこのようなサービスは「TV Everywhere(どこでもテレビ)」と呼ばれていて、ニュース専門局CNNやスポーツ専門局ESPNなどはすでに導入を始めているが、地上波ネットワークが導入するのはFoxがはじめてのケースだ。
ABCやCBSネットワークもFoxに 追随するとの観測も出ているが、そうなればネットワーク番組の翌日配信で人気が爆発した動画配信サイト「フールー」の存続にも黄色信号がともることにもな りかねない。ペイ・テレビから得る再送信料がフールーからの収入を大きく上回ることから、ネットワークテレビにとってもはやフールーは二の次となったとも 言えそうだ。ちなみに、フールーはFox、ABC、NBCなどが共同出資している。
<テレビ朝日アメリカ 北清>