AP通信などによると米国東海岸に沿って北上したハリケーン「アイリーン」による死者は38人(米東部時間29日午後8時現在)に上りました。ニューヨーク市は史上最大の警戒態勢でハリケーンを迎え撃ちましたが、「やり過ぎだ」との批判があった一方で、「ブルームバーグ市長はヒーローだ」との声が上がっています。
ニューヨーク市は「アイリーン」対策としてダウンタウンの低地に住む市民約37万人を対象に強制力を伴う避難命令を出し、「アイリーン」の接近が予想された28日の前日である27日午後5時までに避難を完了するよう命じました。また27日正午には地下鉄などを全面運休しました。いずれもニューヨーク市始まって以来のことです。
「アイリーン」は28日午前9時、ハリケーンから熱帯低気圧に弱まりニューヨーク市上空を通過しました。激しい風雨が満潮時間とも重なり、イーストリバーなどの水位が上昇しダウンタウンで道路が水没しました。また、隣のニュージャージ州とを結ぶジョージ・ワシントンブリッジなど橋やトンネル、高速道路が通行止めとなりました。ニューヨーク市の都市機能はマヒ状態に陥ったのです。
ただ、恐れていたほどの強風は吹かず、約7000あると言われる高層ビルの窓ガラスが割れるという惨事は起きませんでした。普段起きる夕立ちほど雨風が激しくなかった場所もあり、市民の中には「厳重警戒の割にはそれほどの風雨でない」と感じた人も少なくないようです。このため「市の対応はやり過ぎだった」との声が上がったのです。
しかし、市などのその後の対応がこうした批判を吹き飛ばしました。全面運休した地下鉄は当初、運転が再開されるのは29日午後になると言われていました。月曜日の通勤、通学の足が混乱することが予想されましたが、実際には29日朝から運転を再開し、週明けのニューヨーク市は、いつもの顔をほぼ取り戻していました。閉鎖された空港も想定よりも早く再開となり、現場での混乱は最小限にとどまった模様です。
こうしたことから、ハリケーンの恐怖を強調し続けた市長の姿勢を攻撃する声はなりをひそめました。
それどころか、いつもは手厳しいタブロイド紙までもが市長をたたえるような記事を掲載するなど、市長の決定を支持する声が広がっています。
デーリー・ニュース紙は、何度も記者会見し、危機感たっぷりに次から次に対策を発表する市長の動きを「今にも空が落ちくるかかのような市長の行動」と表現しました。
緊急事態に「大きく構えるが重要だ」とはよく言われます。最悪の事態を想定した今回の市の対応は、学ぶべきところがあったようです。