フィラデルフィア・フィリーズ 強さの秘密

前回のコラムでフィラデルフィア・フィリーズのことに少し触れたが、今回はこのチームを少し掘り下げてみたい。長年「お荷物球団」として知られ、20077月には米国スポーツ史上初の10000敗を喫したが、08年にワールドシリーズを制覇して以降、安定した力を発揮している。

 

2011年シーズン、フィリーズは開幕から好調を維持し、912日現在でのフィリーズの成績は9449敗。大リーグ全30チーム内で最高となる勝率(.657)を記録し、またナショナル・リーグ東地区では2位アトランタ・ブレーブスに10ゲーム差をつけて首位を独走している。

 

今シーズン残り19試合中12勝すると、2001年にシアトル・マリナーズが樹立したシーズン最多勝、106勝に並ぶ(現行の1シーズン162試合制)

 

フィリーズ絶好調の理由は3つある。1つ目は先発投手がほぼ計算どおりに活躍をしていることだ。防御率3.03、失点数464On-Base-Percentage(エラー、フィルダース・チョイスを除いた被進塁率) .296と各部門で全30チーム中1位。奪三振数は1134で4、セーブ数は44で5、被長打率は.357で3位と、いずれも上位にある。現在17勝を挙げているロイ・ハラディ(防御率2.44)を始め、16勝のクリフ・リー(2.44)14勝のコール・ハメルズ(2.60) らの先発3本柱がその好成績を引っ張っている。

 

先発4番手のロイ・オズワルドが、けがなどで不振であるものの、ヴァンス・ウォーリーという生え抜きの若手が急成長し、その穴を埋めた。メジャー2年目だが、夏場の厳しい時に常勝チームのローテーションを守り、11(2)、防御率2.92という立派な成績を残している。先発陣だけではなく、抑えも好調だ。セット・アッパー、ライアン・マドソンがその長身を生かした伸びのあるストレートでセーブを量産。現在まで30セーブを挙げている。

 

2つ目の理由は大型選手の獲得と自前選手の育成とのバランスがとれていること。負けこんでいたころのフィリーズは予算が無く、フリー・エージェントで完成された大型選手を獲得できなかった。頼みは弱いチームに優先指名権が与えられるドラフト権のみ。それを利用して、フィリーズは時間をかけて、コツコツと才能のある「宝石の原石」を磨き上げてきた。


前述したハメルズ、ウォーリー、マドソンに加え、野手陣も生え抜きで充実している。クラッチヒッターでスピードがあるジミー・ロリンズとチェイス・アトリー。打点王とホームラン王のライアン・ハワード。捕手で守備の要のルイス。これら生え抜きの選手はフィリーズの主軸となり、外野手など足りない部分はFAやトレードで的確に補ってきた。

それらの選手が気持ちよくプレーに集中できるような、監督の存在が3つ目の理由だ。ヤクルト・スワローズや近鉄バファローズでプレーした「赤鬼」チャーリー・マニエル監督は選手に口うるさいことを言わず、とにかく選手の自主性を重んじ、伸び伸びと楽しくプレーさせることをモットーとしている。また信じた選手は、とことん信じることも、選手の中では好評だ。


前シーズン、ロリンズが不振に苦しんでいたときも先発で起用し続けた。記者会見でそのことを聞かれても「今に打ち始めるから別に気にしていない」と涼しい顔でかばった。ロリンズ本人には「フィールドに出て、ただ自分のプレーを楽しんでやればいいんだ」と笑顔で話しかける。選手はそんな監督をありがたく思い、全力を尽くそうと頑張る。

 

マニエル監督だけではなく、過去には田口選手(現オリックス・ブルーウエーブ)と井口選手(現千葉ロッテ・マリーンズ)がプレーするなど、日本にもゆかりのあるフィリーズ。チーム打率は.255(全30チーム中15位)と、投手陣に比べ少し見劣りするが、火がつくと破壊力抜群で見ていて面白い。ニューヨーク・ヤンキースやボストン・レッドソックスもいいが、優勝候補筆頭のフィリーズにも今シーズンは注目して欲しい。