地区優勝一番乗りも、少し憂鬱な赤鬼チャーリー。

「プレーオフでの一番の懸念は、やっぱり打線。点を取らなきゃ勝てんわな。(プレーオフでは)相手投手陣のレベルも格段に上がってくる。まずは打者、(チェイス)アトリーと(ジミー)ロリンズの体調を万全の状態に戻さないといけないな。」 14日、ロイ・ハラディの今季初の完封勝利でプレーオフ進出を決めた「赤鬼」こと、フィラデルフィア・フィリーズのチャーリー・マニエル監督に笑顔は無かった。

 

成績だけ見ると「王者の野球」だった。投打ともに実力を見せ付けながら、淡々と勝ち星を積み重ねた。通常フィリーズはオールスター戦までのらりくらりと勝率5割をどうにか保ち、夏場からシーズン終盤にかけてようやくエンジンをかけ、連勝を重ねるという戦い方をする。

 

今季は圧倒的な布陣がそろった先発投手陣の下、4月を5連勝を含む188(.692)とスタートダッシュに成功する。そして「得意の夏」がやって来る。7月から8月にかけては9連勝を飾るなど、チームはひとつにまとまり、917日には最速で5年連続の地区優勝を決めた。ファンや地元メディアは早くも2008年以来の王座奪還を期待する。

 

しかしながら。ポストシーズン第一回戦で対戦が予測される2チームは手ごわく、フィリーズの苦戦を予想する人も多い。齋藤隆投手が所属するミルウォーキー・ブリュワーズは穴がないチーム。投手陣にビックネームはほとんどいないが、実力派が名を連ね、大崩れしない。打線はしっかりとつながり、それを元阪神セシル・フィルダーの息子、プリンス・フィルダー内野手とライアン・ブラウン外野手のパワーヒッター・コンビが返す。短期決戦で相対するには難しい相手だ。

 

もう一方のチーム、アリゾナ・ダイヤモンドバックスは若手が伸び伸びとする野球が特徴だ。他チームでパッとした成績を残せなかった2人の投手、イアン・ケネディ投手とダニエル・ハドソン投手がチームを牽引する。特にケネディ投手は今季20勝投手に大化けした。若いチームだけに好不調の波は大きいが、逆に「失うものは何も無い」と開き直ることが出来たら、その勢いでフィリーズを一気に飲み込む可能性もある。

 

5年連続の地区優勝。同地区のアトランタ・ブレーブスやニューヨーク・メッツに負け続けた「暗黒時代」を知るフィリーズ関係者にとってみたら、とても甘美な響きだろう。ただ、そこで何かを守るような、受身の心理状態になったとしたらすぐに足元を救われる。まだ何も終わっていない。まだ何も勝ち取っていない。選手に対し、タイトルへの更なる貪欲さを常に意識させるマネジメントが、マニエル監督含めチーム上層部には必要になってくる。

 

赤鬼の憂鬱は、さらに大きくなるのか。それともただの杞憂で終わるのか。メジャーリーグで最も熱い一ヶ月、ポストシーズンは930日から始まる。