東京の道はなぜツルツル?

ツルツルに凍結した車道と歩道のニュース映像を見て思った。「なんで除雪しないの!?」

123日から24に掛けて日本の首都圏を大雪が襲った。積雪は東京都心で4センチ。6年ぶりの記録となった。いや、除雪に汗を流した方々も多かったと思う。疑問に思ったのは、公共スペースでの除雪。車道や駅前広場、歩道橋など、日々の生活で欠かせない場所。新聞やテレビを見る限り自治体による除雪作業が見えてこないのだ。責任放棄ではないのか。と、こんな疑問をニューヨーク支局の同僚にぶつけてみた。返ってきた答えが「え!そうですか?あんまり疑問に思わないんですが・・・」。同僚記者は去年の夏に赴任してきたばかり。ニューヨークの冬は初めてだ。いっぽうの私はこれが3回目の冬。感覚の違いは、過去2年間、ニューヨーク市の猛烈な除雪を目の当たりにしてきたことが原因だろう。

ニューヨーク市は、2009年、2010年と2年連続で大雪に見舞われた。特に、2010年のクリスマス明けの大雪はひどかった。1226日朝までに記録的な積雪となったマンハッタンは、各所でバスやタクシーが立ち往生した。除雪が間に合わず、救急車の到着が大幅に遅れ、ニューヨーク市への怨嗟の声が広がったのだ。政治生命の危機を感じたのかブルームバーグ市長は会見を開き、対応の遅れを認め、年明けの1月に再び襲った大雪では機敏な対応を見せた。

私がマンハッタンで目撃したのは、大量の臨時除雪車だった。ゴミ収集車のフロントに除雪用の鉄板(排土板)を付けて街中を走り回っていた。さらに融雪のための岩塩が大量に撒かれていく。塩は水の融点を下げ、雪や氷を溶かしてゆく。

ニューヨーク市が除雪に熱心なのは理由がある。ニューヨーク市行政規則(New York city Administrative Code)で「道路からの雪と氷の除去。市は降雪後あるいは結氷後ただちにそれを取り除き、道路を障害物から清潔かつ自由な状態に保つべし」と規定しているからだ。
ブルームバーグ市長は、2010年クリスマス明けの失態を受けて、2011年の夏に、除雪する道路の順序などをさらに細かい規定を追加で制定している。

ただ、市が責任を持つのは車道や市が所有する広場に限られる。歩道は市民の責任で除雪しなければならない。ここでもニューヨーク市の行政規則が細かく規定する。「商店主やテナント、アパートのオーナーなどあらゆる建造物の責任者は降雪後4時間以内に除雪をすべし。違反した場合は10ドル以上150ドル以下の罰金、あるいは10日以下の拘留」と厳しい。ということで、ニューヨークのたいていの歩道は除雪とふんだんに撒かれた融雪剤でびちゃびちゃになる。

 

いっぽうの日本はどうか。国レベルでは道路法42条で「道路管理者は、道路を常時良好な状態に保つように維持し、修繕し、もつて一般交通に支障を及ぼさないように努めなければならない。道路の維持又は修繕に関する技術的基準その他必要な事項は、政令で定める」としている。ここで言う、道路管理者とは、国道なら国土交通省、県道・都道なら都道府県、区道なら区ということになる。豪雪地帯の自治体では、除雪について条例で細かく規定している。「除雪」とははっきり書いていないのが気になるが、除雪が自治体の責任と読めないこともない。

 

しかし、めったに大雪が降らない東京都では都内を11の建設事務所のエリアに分け、それぞれの地域の都道やその歩道については、各建設事務所の判断で除雪や融雪剤の散布をしている。この際、実働部隊は各建設事務所と提携している民間業者。もちろん有償だ。

 

今回23日から降りだした都内の雪でも、夜半前後から除雪を始めたという。歩行者や運転者が雪や凍結に馴れていないこともあるが、24日昼までに都内で160件以上の交通事故、50人以上が救急搬送された。

 

 ニューヨーク市は、東京よりも冬の平均気温が低く、降雪も多い。とはいっても、大雪の頻度は一冬数回だ。市民の安全を守るという視点で言えば、東京を含む首都圏の各自治体も、融雪剤の備蓄や、通勤通学路の車道・歩道の優先的除雪・融雪を細かく条例化したほうが良いのではないだろうか。温暖化の影響で、大雪が少なくなるのではないかと思う方も多いと思うが、逆にこの冬のように寒気の吹き出しが増えて雪が増えることもあり得るという。高齢化社会をも見据えたきめ細やかな行政サービスを期待したい。

 

<ニューヨーク支局 山野孝之>