無名選手がNBAに一大旋風

初の台湾系アメリカ人、そして米名門ハーバード大学卒業生という異色のバスケ選手、ジェレミー・リン(23)が米プロバスケットボール協会(NBA)に旋風を巻き起こしている。リン選手が所属するのはニューヨークの名門チーム「ニックス」。主力選手の故障離脱もあって「勝てないチーム」のレッテルを貼られていたが、彗星のごとく登場し司令塔役であるポイントガードを任されたリン選手のおかげで2月に入り連勝続き。ニューヨーク・タイムズ紙をはじめ各紙が同選手の活躍ぶりを連日大きく扱うなど大変な盛り上がりようだ。チームは急遽、当初は用意していなかったリン選手の背番号17がついたジャージーを製造、店頭に出せば瞬く間に売り切るほどの人気ぶり。中国系はもとより、「アジア系アメリカ人の誇り」的存在にもなっており、オバマ大統領も注目するなど社会現象にもなっている。 

 

そのリン旋風が、NBA試合中継番組の視聴率上昇に一役買っている模様だ。好カードを全国向けに放送するケーブル局「TNT」の平均視聴率が昨シーズン比24%の増加を示せば、スポーツ専門局「ESPN」も同21%増、地上波ネットワークで唯一放送権を握るABCネットワークの視聴率も18%増となるなど活況を呈している。実はNBA、昨シーズン終了後に満期となった労使協定の更改交渉が暗礁に乗り上げ、一時は今シーズン開催が危ぶまれていた。シーズンがキャンセルされれば、放送権を保有するテレビ局のCM収入が10億㌦規模の損害を受けるなど大きな懸念が寄せられていたが、結局、昨年12月に入り、ようやく交渉が妥結。本来なら82ゲーム戦われる試合数が66ゲームに短縮され開始された。変則的なシーズンの行方を関係者が固唾を呑んで見守っていただけに、視聴率の好調な推移は朗報となっている。


また、リン旋風はニューヨークテレビ市場にも思わぬ影響をもたらした。ニックスのホームグラウンドはマジソン・スクエア・ガーデン。同コートで行われる試合はチームのオーナー会社でもある「マジソン・スクエア・ガーデン社」傘下のMSGネットワークが独占放送しているが、ケーブルテレビ(CATV)事業者大手タイムワーナー・ケーブル(TWC)に対し同ネットワークの配信を拒否、ブラックアウトの状態がシーズン開幕から続いていた。MSG側の配信料値上げ要求をTWCが不当に高すぎると拒否していたためだが、ブラックアウトが37日間続いた時点でリン旋風が巻き起こると視聴者から苦情が殺到。ついにニューヨーク州知事が仲介に乗り出し、放送が開始された。 

<テレビ朝日アメリカ 北清