米国でテレビ番組を放送時に見るリアルタイム視聴時間が減っている。若者層を中心に、「見たい番組を見たい時間に視聴する」タイムシフト視聴習慣が根付き始めているからだ。ニューヨークの有力広告会社「ホライゾン・メディア」の調査部門責任者ブラッド・アドゲイト上級副社長がこのほど発表した最新調査によれば、2006年には番組の89%がリアルタイム視聴されていたが、11年は85%にまで減少したという。
番組のインターネット配信、そして、ケーブルテレビ(CATV)や衛星放送事業者が提供するオンデマンド・サービスの普及もあるが、HDD内蔵型のデジタル・ビデオ・レコーダー(DVR)の普及が大きくものを言っているようだ。同調査は、「DVRの普及率が過去5年間で17%から45%に急増している」としている。
DVR視聴については、同機器を使って手軽にCM飛ばし視聴が可能となるため広告主が懸念を示しているが、テレビネットワークなど番組提供者にとっては、番組を継続するかどうかの決定材料になるという意外な側面もあるようだ。
実際に、NBCネットワークが今年5月に終了した2011-12年シーズンに大型予算を投入しデビューさせたブロードウェイ・ミュージカル番組『Smash(スマッシュ)』は視聴率が芳しくなく1シーズン限りで打ち切られる可能性が指摘されていた。ところが、広告主が重視する若者層(18-49歳)のDVR視聴が1エピソード当たり平均250万人もいることが判明、来る9月から始まる新シーズンでの続投が決まった。他にも、CBSネットワークが放送するアクション・ドラマ『Hawaii Five-O(ハワイ・ファイブ・オー)』や『CSI:科学捜査班(邦題)』など、DVR視聴のおかげで視聴率が合格点に達する番組が少なくない。米テレビ事業者はDVR視聴との共存時代に突入したとも言えそうだ。
ところで、ホライゾンの報告書は、タイムシフト視聴増加が、CATVや衛星放送などペイテレビ事業者による番組再送信サービスに大きな影響を及ぼす可能性を指摘している。高額な加入料を払ってまでテレビ番組をリアルタイム視聴する必要はないと感じる若者層や低額所得層からペイテレビ解約の動きが出始めているためだ。アドゲイト氏は、900億㌦規模ともいわれる米ペイテレビ事業が多チャンネルを提供する現行サービスから、消費者の要求を鑑み、少数チャンネル・低額加入料型への移行を余儀なくされると見ている。