NYタイムズCEOに英BBC会長

世界有数の高級紙米ニューヨーク・タイムズの最高経営責任者(CEO)に英公共放送BBCのマーク・トンプソン会長(55)が就任することになった。同紙の会長兼発行人アーサー・ザルツバーガー氏が8月中旬に発表したもので、トンプソン氏はBBC会長退任後、11月に同紙の社長兼CEOに就任する。トンプソン氏は、「ニューヨーク・タイムズは世界が羨望する傑出した編集局を抱えている。そのCEOになることは名誉なことだ」と語っている。

米新聞大手が異業種しかも異国からCEOを採用するのは極めて異例なこと。ザルツバーガー会長は、トンプソン氏任命を発表した席で、「我社は活字媒体を熟知した、そして、広告市場を熟知した、業界の中でもベストな人材も抱えている。しかし、我々の将来はビデオ、あるいはソーシャルメディア、さらにはモバイル・メディアに向かっている」と説明している。トンプソン氏の起用は、同紙の将来が「紙」から「デジタル」に移って行くことが避けられない流れであることを示したものとも言えそうだ。

 

トンプソン氏に白羽の矢が立った背景には、同氏が8年間にわたりBBCを率いてきた手腕、特にタブレット型携帯端末向け番組配信(BBC iPlayer)などデジタル事業の推進や、米国で立ち上げたBBCアメリカなど海外ビジネスの展開で見せた指導力があるようだ。ちなみに、デジタル事業でいえば、ロンドン五輪の際にBBC始まって以来の規模のデジタル配信を成功させたばかりだ。


しかし、トンプソン氏の採用については賛否両論でている。「公共放送での経験が、商業収入を追及する民間メディア企業運営に通用するのだろうか」「海外展開に成功した手腕が買われているそうだが、果たしてNYタイムズ紙は世界市場に通用するメディアなのか」などと懐疑的な声が挙がっている一方で、「同紙がいま必要としているものは、新鮮な目線を持った経営者。トンプソン氏はうってつけなCEOとなる可能性を持っている」などと期待を寄せる向きもある。

 

ニューヨーク・タイムズ紙の201246月期の決算をみると、広告収入や販売部数の減少から8800万㌦の純損失を出したが、有料電子版や電子書籍経由の購読加入者(姉妹紙ボストン・グローブ紙他を含む)が53万人を超える活況ぶりを示している。米金融大手バークレー調査部によれば、2014年には同紙のデジタル加入者数が新聞購読者数を超える見込みだ。

<テレビ朝日アメリカ 北清>