新クッショニング戦争勃発か? アディダスが新素材で巻き返しへ

ランニングシューズの歴史は、様々な最新鋭の技術を使い、いかに衝撃からランナーの膝や足を保護しながら軽量化を進めていくか、その戦いの歴史であった。ランニングブームが米国で起こった70年代から80年代にかけて、スポーツメーカー各社は足への負担を軽くするため靴底にクッションを埋め込んだランニングシューズを相次いで発表した。

 

代表的なところでは、ナイキは「エアシリーズ」を、アシックスは「ゲルシリーズ」をそれぞれ投入し、ランナーの支持を得た。拡大を続けるランニング市場でのシェアの奪い合いは、熾烈さを増していった。

 

そんな中、大手スポーツメーカーのアディダスも、衝撃吸収の「アディプリーン」や足のねじれを防ぐ「トルションシステム」など、かなり完成度の高い技術を投入したものの、一般のランナーに認知されるまでは至らず、特に米国市場では先述した2社に苦戦を強いられている。

 

靴やアパレル業界の動向をモニターしているスポーツワン・ソースによると、2012年、米国内におけるアディダス製のランニングシューズ販売シェアは4%で6位に留まった。トップのナイキ(54%)、2位のアシックス(12%)に大きく水をあけられている。

「ランニングの革命」が巻き起こるか?
「ランニングの革命」が巻き起こるか?

 

「これはランニングの革命なのです」

 

13日、米国ニューヨークで開かれたアディダスの新製品発表会で、同社のスポーツ・パフォーマンス・チーフのエリック・リーケ氏は自信に満ち溢れた表情で語った。リーケ氏の手には新作のランニングシューズ「アディダス・ブースト」があった。

 

なぜ「革命」なのか。これまで大手メーカーはクッション素材として、30年程「EVA」と呼ばれる合成樹脂、エチレン酢酸ビニルを使用してきた。今回アディダスは、「EVA」の代わりに独自開発した「ブーストフォーム」を採用した。

 

発表されたブースト。クッショニングに特徴が。
発表されたブースト。クッショニングに特徴が。

 

「ブーストフォーム」と「EVA」の大きな違いは2つだ。スマートフォンなどのケースに使われているTPUという素材は、柔らかいウレタン樹脂で、ゴムのように弾力がある。それらを小さなカプセル状にすることで、走る際、足にかかる衝撃を受け止めると同時に、その衝撃を反発力に変えて、ランナーがスムーズに足を運ぶよう、エネルギーを伝えることができる。またいかなる気候の変化にも左右されずにその性質を保てるという。


アディダス・ジャパンのマーケティング・ディレクター、河合健太郎氏に誘われブーストを手に持ってみると、見た目よりもかなり軽いことに驚いた。片足およそ278グラムという軽さに納得し、「ブーストフォーム」を指で押してみると「くっ」と指が食い込む。と、その瞬間「ポンッ」と指が押し返された。

クッショニングと反発力の両立を成し遂げた「ブーストフォーム」
クッショニングと反発力の両立を成し遂げた「ブーストフォーム」

 

河合氏は胸を張ってこう言った。「プロのアスリートの方々にも履いて頂いたんですが、皆さんまずその柔らかさに驚いています。履き心地は例えて言うと『プニプニ』ですね。でも柔らかいだけじゃなくて、その反発力で走りをしっかりとサポートしてくれるとのフィードバックを頂いています。クッショニングと反発力の両立。今まで成り立たなかったものを成り立たせた自信作です」

 

ベルリンマラソン4連覇の皇帝、ハイレ・ゲブレシラシエもその性能に太鼓判を押す。
ベルリンマラソン4連覇の皇帝、ハイレ・ゲブレシラシエもその性能に太鼓判を押す。

 

ブーストは英語で「上がる、押し上げる」という意味を持つ。それを武器に新たなクッショニング戦争を仕掛けたアディダスは、米国のみならず、全世界でシェアを伸ばすことができるだろうか。27日に全世界同時発売され、価格は米国内で150ドル。

 

(NY 堀内)