「ネットの中立性」めぐり板挟み

FCC(米通信委員会)のトム・ウィーラー委員長がインターネットへのアクセスをすべての利用者に公平に開放すべきかどうか、いわゆる「ネットの中立性」をめぐりオバマ大統領と野党共和党の板挟みにあっている。オバマ大統領が11月上旬突然FCCに対し、ネットの中立性を保つためにインターネット(ブロードバンド通信)を電話通信などと同じく公共サービスとして分類するよう強く呼びかけたからだ。野党共和党からは「ネットを公共サービスとして分類することは不適格」「呼びかけは大統領の権限を逸脱している」などと一斉に非難の声が上がり、政治問題化している。

米国ではネットに依存するグーグルやフェイスブックなどIT企業が活況を呈しているが、ネット提供者からは、「ネットにただ乗りしている」との批判が絶えない。また、人気沸騰中の動画配信サービスNetflix(ネットフリックス)がネット通信の約30%の帯域を占拠しているともいわれ、“(ネット上の)交通渋滞”が問題視されている。ネット・プロバイダーの間では「特定の利用者には課金すべきだ」という意見が支配的、ネット事業者が規制の対象になるのなら、全国規模の高速ブロードバンド網構築を見合わせざるを得ない(通信大手AT&T)などの猛反発も出ている。

一方、市民団体などからは一斉に歓迎の声が上がっている。「ネットの中立性が失われば、つけは消費者に回ってくる」などと警告しているほか、IT企業などからは、「ネットを利用した新興企業のビジネス・チャンスの芽を摘むことになる」「米経済に貢献する技術革新意欲に水をさすことになる」など中立性の維持をアピールする声が支配的だ。

ウィーラー委員長は今夏、折衷案を提示していた。特別料金を支払うネット利用企業にのみ優先的な接続を提供する“ハイブリッド”案だが、今回のオバマ声明はそれを真っ向から否定するものだ。

オバマ大統領は、2008年の大統領選キャンペーン中、公約の中で、ネットの中立性維持を数少ないテクノロジー関連の政策の柱に掲げていたが、今回はビデオ声明を発表する力の入れよう。「ネットの中立性に関しては首尾一貫した姿勢を示した」などと、米報道機関が一斉に取り上げた。

FCCへは中立性に関するコメントが370万件にも上った模様で、市民からも異例といえる関心が寄せられている。来年に向けFCCが新たな道筋を示すことが出来るのか注目される。

<テレビ朝日アメリカ 北清>