米有力紙ニューヨーク・タイムズ紙が11月7日、仮想現実いわゆるバーチュアル・リアリティー(VR)映像が体験できる段ボール製のゴーグルを約100万人の宅配読者に配布した。読者は同時にインターネット上で配信されたVR映像向けのアプリケーション「NYT VR」をスマートフォンにダウンロードし、同ゴーグルに差し込めば、同紙が専用に制作した戦争難民となった子供たちを扱ったドキュメンタリーなどをVR体験できる。
新聞媒体であるニューヨーク・タイムズ紙は若者層の間で加速している“紙離れ”に対応するためデジタル化に力を入れているが、デジタル映像の中でも最先端といえるVRを取り入れ、デジタル媒体の先頭バッターとしてのイメージをアピールしたい狙いもあるようだ。同紙の関係者は、「世界で最も影響力がある(同紙の)読者にVR映像を体験してもらい、広く世の中に周知させる手助けにしたい」と述べている。
VRに取り組んでいるのはもちろんニューヨーク・タイムズ紙だけではない。米メディア企業大手ウォルト・ディズニーが11月に入り、VRテクノロジー会社「Jaunt」に6500万㌦の投資を発表すれば、米CATV最大手コムキャストと米メディア企業タイムワーナーがVR映像を生放送するテクノロジーを開発する「NextVR」社に3050万㌦を投資するといった具合だ。
また、動画配信各社のVR取り組みも始まっている。ネットフリックやフールーなどが、ソーシャルメディア最大手のフェイスブックが買収したVR映像専用のゴーグル製造会社「Oculus(オキュラス)VR」と提携関係を結んだ。オキュラスは、動画配信会社のみならず、20世紀フォックスやライオンズゲイトなどハリウッド大手とも提携。人気映画をVR映像で楽しめる環境づくりが始まっている。
さらに、「360度全方位の映像空間はスポーツ・イベントにうってつけ」(米プロレス興行会社WWE)と、スマホメーカー、サムスン電子などと共同でVR映像を提供する社も現れている。米人気ケーブル局ターナーもNBC(米プロバスケットボール協会)の開幕戦のVR映像を提供した。
VRについては、米消費者には受け入れられなかった3D(立体)映像のように、テクノロジー・バブルとなるのか、次世代の大ブームになるのか、様々な予測が出ているが、米調査会社HISによれば、2020年までに世界で3800万台のゴーグルが出回り、ゴーグルの売上高だけでも27億㌦に達する見込みだ。