リオデジャネイロから連日、さすがにSports
Liveの最高の舞台といえる熱のこもった競技の映像が送られてきている。アメリカでは、オリンピック映像は、Comcastグループの中心的メディア企業NBCユニバーサル(NBCU)の独占だ。NBCUは2011年6月に、2014年のソチ冬季五輪、今回のリオデジャネイロ夏季五輪、2018年のピョンチャン(平昌)冬季五輪、そして2020年の東京夏季五輪の計4大会のアメリカ国内向け独占放送権を、43億8000万ドル(約4420億円)で獲得した。この独占放送権を獲得した時点では、開催地としては18年のピョンチャンも、20年の東京もまだ決まっていなかった。
この7月にニューヨークに来て、初めてアメリカのTVで五輪を見ている新入りのニューヨーカーにとっては、アメリカの五輪放送は驚きの連続だ。
まず、引っ越した最初の日、新たに購入したSmartTVとともにDVR内臓のSTB(セット・トップ・ボックス)が設置される。これはCATVプラス衛星放送の「ペイテレビ」、「高速ブロードバンド通信」、「固定電話」の三つのサービスが「トリプル・プレイ」となっているためだ。地
たとえば五輪が見られるのは、4ch.のWNBCHD、14ch.のMSNBC(普段はケーブル・ニュース局)、18ch.のBRAVHD(普段はポップ・カルチャーやライフスタイルの番組を流すBravo Media)、314ch. のNBCSHD(スポーツ専門チャンネル)、405ch.のGolf
Channelなどと、いずれもNBC系列のチャンネルのみだ。それぞれのチャンネルが、別々の人気の高い種目をLiveで一日中流している。独占権であるため、スポーツチャンネルとしては圧倒的な人気を誇る専門局ESPN(ディズニー系)でも、五輪の競技映像は一切流せない。他局のスポーツ番組でも、ニュース番組のスポーツコーナーでも、競技映像は1秒たりとも流せない。他局は、五輪期間中は指をくわえて見ているしかないのだ。
人気種目の放送時間もアメリカ東部時間のプライム・タイム(20時から23時)狙いとなっている。ここが莫大な放送権料を支払っているNBCの発言力の大きさで、体操女子決勝や、競泳男子400メートル自由形リレーなど、メダルが期待され、アメリカの国威発揚とつながるものは、ほぼこの時間帯に設定されているため、
NBCが五輪にかける物量も桁違いで、8月3日付『ハリウッドリポーター』(On Line版)によれば、リオで働くスタッフは2000人を超え、送り込んだ機材の総重量は12万トン、様ざまなチャンネルを通した総放送時間は6755時間、live streamingの総時間は4500時間を超えると言う。これは一日平均のcoverageが356時間、live
streamingが236時間という計算になる。
今回のリオ五輪での、NBCの注目すべき取り組みは、積極的なon lineでのcoverageだ。NBCが五輪大会のon lineでのカバーを始めたのは4年前のロンドンからだ。ロンドン大会は、五輪のweb元年といえるが、当時は技術的な理由で、全面的なデジタル展開は不可能だった。この4年間にデジタル技術は機材面でも通信面でも大幅に進み、ストレスのないlive
streamingが可能となった。オリンピック放送サービスのヤニス・エクサルコスCEOは、「このリオの大会はデジタル放送がこれまでの放送と同じくらい重要なものとなる最初の大会となるだろう」と述べているほどだ。
まず、 NBCの親会社ComcastのXIケーブル・ボックスを使えば、ケーブルテレビのわずかな追加料金でほとんどすべての競技がみられるようになる。スマホやタブレットではNBCSportsをダウンロードすればlivestreamとプライムタイムの番組が視聴可能となっている。PCでもNBCOlympics.comで競技が視聴可能だ。しかし、こうしたNBCのappやwebではハイライトやインタビュー、小企画などが中心で、しかも無料で見られるのは最初の30分に限られ、続けて視聴するためにはComcastのcable TVの受信者ログインが必要となっている。つまり五輪の競技を見たければ、Comcastを利用せざるをえない環境が作られているといえる。8月1か月間のNBC streamingの申込み料金は30から40ドルだ。注目すべきことに、開会式だけは、テレビ放送でのみ中継の視聴が可能であった。「テレビはライブの王様」という見方が深く根付いている証拠であろう。実際、開幕前にAllianzが行った調査では、調査対象の60.7%が「五輪はテレビで見たい」と答えている。
これに対してonlineのstreaming liveで見たいと答えたのはわずか8.5%にとどまっていた。
NBCという巨額な権料を担う複合メディアにとっては、もてるだけのチャンネルとwebの可能性を駆使して、視聴者をどこへ導くことで、最大限のプレゼンスを示し、最大限の利益をもたらすことができるか、という複雑なメディア方程式の解をさがす巨大な試みがおこなわれているである。