【五輪の視聴者はどこに?――歴史的な低視聴率で始まったリオ】

前回は、NBCの圧倒的な五輪戦略に触れたが、実はリオデジャネイロ五輪は開会式、二日目が歴史的な低視聴率となったことがわかった。
ニールセンによれば、リオ五輪の開会式の米国内の世帯視聴率は速報値13.9%で、1992年のバルセロナ五輪の13.8%に次ぐ24年ぶりの低さで始まった。視聴数は2650万で、これも2004年のアテネ五輪の2540万以来の低調さだった。ちなみに前回2012年のロンドン五輪の開会式の視聴率は21.7%、視聴数は4070万で、開幕前には「視聴者の関心は、ロンドン五輪のときより高い」と自信を持って語っていたNBC幹部の期待を裏切った形となった。競技初日となった現地6日(土)の視聴率も伸びず、NBCのプライムタイムの視聴率は11.4%にとどまり、これも4年前のロンドン五輪二日目の15.8%から大きく落ち込んだ。
NBCのスティーヴ・バークCEOは、投資家向けIRで、「リオ五輪の放送によって1億2000万ドル(約120億円)の利益が期待できる」と語っていただけに、この低視聴率の原因について、各紙誌ではさまざまな分析が行われている。

ましてやNBCは2020年の東京五輪以降も2032年までの6大会の独占放送権を、推定77億ドル(約7700億円)で契約しており、影響は今大会にとどまらないとの見方もある。
原因として挙げられているのが、開会式の放送中のCMの多さ、リオ五輪を巡るジカ熱や国際五輪委員会の賄賂問題、ブラジルへの関心の低下、そしてNBCのあまりに煽りがちな中継アナウンスへの反感などだ。しかし、リオ五輪開会式のCM量はロンドン五輪を超えていたわけではない。ロンドン五輪開会式では、4時間半の放送時間内のCMは72本、41分30秒だったのに対し、今回のリオ五輪開会式では、同じく4時間半の放送時間内のCMは54本、33分45秒にとどまっている(8月9日付『ウォールストリート・ジャーナル』)。もう一つ、原因に挙げられているのが、4年前に比べてインターネットユーザーの数が圧倒的に増加し、デジタル・デバイスで視聴したのではないか、という説だ。デジタル視聴者の数はこの4年間で150%の伸びとみる媒体もあるが(8月10日付“eMarketer”)、精度の高い数字は、五輪が終わってからでないとわからないようだ。

しかしながら、8月1日から7日までの高視聴番組(プライムタイム)のトップ3は、1位リオ五輪競技(NBC、2980万視聴)、2位リオ五輪開会式(NBC、2650万視聴)、3位リオ五輪(NBC、2060万視聴)と、いずれもNBCの放送した五輪中継で、他を圧倒している。ちなみに4位、5位はともにNBCの人気リアリティ番組”America’s Got Talent”(火曜日1160万視聴、水曜940万視聴)となっている(8月9日付”TV Newscheck”)。
ここには、現地9日の、アメリカチームが完璧な演技を見せて金メダルを獲得した体操女子団体や、伝説の五輪ヒーロー、マイケル・フェルプス選手をアンカーとして金メダルに輝いた競泳男子自由形800メートルリレーなどが含まれておらず、その視聴数が、大会初日と二日目をどの程度上回ったかは大いに興味をそそる。
自国選手の強い姿を見たい、メダル獲得を見たい、という欲望が他の何にもまして強まる五輪では、当然ではあるが、自国選手の活躍こそが、視聴率につながる確実な道だ。

そう考えると、2032年までの五輪独占契約権を結んだNBCは、少なくとも2032年までは、アメリカ合衆国という国が五輪競技の世界に君臨し続ける――という強い確信を抱いているということになるのだろう。