【ViacomとCBS、再統合の動き――巨大メディア企業の再登場か】

米3大ネットワークのひとつCBSネットワーク(以下CBS)が、メディア企業Viacomと再統合するのではないか、との観測が流れている。両社はもともとViacomというひとつの巨大メディア企業だったが、2006年、TVネットワークやラジオを含むCBSコーポレーションと、ケーブルTVやパラマウント映画などを傘下に置くViacomの2社に分離した。分離した当時は、若者向け音楽専門局MTVやComedy Central、そしてハリウッドの老舗映画会社パラマウントを擁するViacomの方が「オールド・メディア」と揶揄されるCBSよりも将来性が期待されていた。
創業者サムナー・レッドストン氏(93)のカリスマ性のもとで発展してきたViacomだったが、1998年にレスリー・ムンベス氏がCBSネットワークの社長兼CEOに就任すると、ムンベス氏は巧みな編成戦略で、CBSを3大ネットワークの最下位から「アメリカで最もよく見られているネットワーク」へと引き上げた。さらに、ムンベス氏は番組放送後1週間のCM視聴率(C7)を勘案しながらCM料金を設定する提案を広告主に積極的に行った経営者でもある

(CBSとムンベス氏については『American Media』2016号を参照のこと)。しかし、ムンベス氏も2006年の分離時には「貧乏くじをひいた」などと言われていた。
しかし、それから10年、両社の立場は逆転した。2006年といえば、まだ初代のiPhoneが発売される前であり、その後の10年のスマートフォンの進化は想像外だった。若者たちはViacomのケーブルテレビからSnapchatやInstagram、YouTubeなどへと流れ、一方、話題のドラマやフットボールなどのスポーツ番組を巧みに編成し、リアリティー番組ブームに火をつけて、海外番販とペイTVの再送信料の徴収に力を注いできたCBSの2015年度の売上高は138億9000万ドル(約1兆3890億円)にも達した。両社の株価を比較すると、CBSは2006年当時と比べて107%となっているのに対し、Viacomは当時より12%下落している。

今回の再統合劇の影にいるのが、創業者サムナー氏の娘シャリー・レッドストン氏だ。父サムナー氏は老齢で判断力が鈍り、愛人たちにコントロールされていると噂されるなど、「ポスト・サムナー」を巡っては、裁判沙汰も起きていたが、1年前には父サムナーにロサンゼルスのアパートから締め出された娘シャリーが父親との関係を修復することによって、権力関係は一気に動いた。
レッドストン家は、CBSとViacomのホールディング・カンパニーであるNational Amusements Incorporatedを通じて、CBSとViacomの株式の80%を握っている。シャリー・レッドストン氏は、Viacomの株価を大きく下げたViacomのCEOフィリップ・ドーマン氏を取締役から駆逐した。シャリー氏は再統合するコングロマリットのトップに手腕の確かなムンベス氏を就任させるつもりだと言われている。ムンベス氏も巨大メディア企業の海外展開を含んださらなる舵取りに意欲的だと言われている。しかしViacomには120億ドル(約1兆2000億円)の負債があるとも言われており、火中の栗を誰が拾うのかが注目されている。