【トランプ女性蔑視発言とスクープの背景――ワシントン・ポストとNBC】

米国大統領選挙まで1か月を切った。共和党のトランプ大統領候補の女性蔑視発言テープが公表され、支持率を落としている。発言そのものは11年前の2005年、ワイドショーのロケバス内で。番組のキャスター、ビリー・ブッシュ(息子ブッシュ大統領の従弟)との会話の中で出てきたものだ。
 ニュースでしばしば引用される’And when you're a star, they let you do it. You can do anything.’という一節だけでなく、トランプ候補のもっと長い会話の内容そのものが批判の対象となっている。
 この映像と音声は、『ワシントン・ポスト』紙のスクープとされている。10月9日(日)の第2回大統領候補討論会の直前である7日(金)の昼に『ワシントン・ポスト』がネットに動画とともに音声を公開した。しかし、このロケバスの番組”Access Hollywood”の放送局NBCが、実はその4日前にこの素材を見つけ出していたことがわかっている。

『ニューヨークタイムズ』(10月9日付)紙などによれば、ベネズエラ出身のミスユニバースに対するトランプ候補の侮蔑発言を受けて、もっと他に素材はないか、とアーカイブを探していた”Access Hollywood”のプロデューサーが過去素材の中からこの会話を見つけたのが10月3日(月)。NBCのアンドリュー・ラック会長にテープ素材がある、との報告があがったのは、翌4日(火)だった。さっそくNBCは弁護士に、この素材がOAされて訴えられた場合、訴訟に勝てるか、会話の状況はトランプ氏とのプライベートな場面で、ここでマイクを使っていたこと、それを放送することは放送倫理において適切か、などの法的な側面の精査を依頼した。それとともに過去素材そのものはワイドショー番組”Access Hollywood”のものであるため、OA優先権を当該番組に与えた。普段はハリウッド情報やセレブ情報を伝える番組側も、これほど「重たい」素材の扱いに慣れていないために手間取り、法的なデューデリデンスにも時間がかかった。

7日(金)には猛烈なハリケーンが米国南東部を襲っていたために、番組もテープの放送は月曜以降に延期する方針を決めていた。
 そうした中で、『ワシントン・ポスト』は7日(金)午前、ビデオを入手し5時間かけてチェックしたうえで、昼過ぎ、On-lineで公開した。自局での決断に時間がかかっていることに業を煮やしたNBC関係者のリークだった可能性がきわめて高いと言われている。もともと素材を持っていたNBCも『ワシントン・ポスト』の公表を受けて、即座に系列の24時間ニュース局MSNBCで放送に踏み切った。
 NBCは、「発言がトランプ氏のものであることは確実だからこそ、NBCは責任を持って行動した。入手から4日かかったことは、重大なニュースを準備する期間としては長くはない」としている。またNBC報道局も「このプロセスにおいて報道局は常にニュースを出す準備をしてきたし、ジャーナリズムの基本的な手順を踏んできた。ニュースに値すると判断し、それをなるべく早く、可能な限り責任を持ってどう伝えるか、報道機関として適切に対応してきた」と述べている。
 

このトランプ候補の発言が引き金となって、支持率は急速に低下し、ヒラリー・クリントン候補に水をあけられただけでなく、共和党幹部も今後はトランプ候補の積極的な支持を拒絶するなど、大統領選挙に大きな影響を与えているが、素材の公表をめぐる『ワシントン・ポスト』紙とNBCの対応をめぐっても、議論が続いている。