【AT&T、タイム・ワーナーを買収!――巨大コングロマリットは誕生するか?】

経済情報専門のブルームバーグがAT&TとTime Warnerの交渉を伝えたのが10月20日(木)午後。「週末にも結論か」という内容だったが、22日(土)には合併を公表した。Time Warnerについてはこれまでも他社との間で買収の話が出ては立ち消えになっていたが、今回、両社は8月から水面下で話を進め、比較的順調に合意に至ったようだ。
2011年に通信大手ComcastがNBCUniversalを300億ドルで買収し、同じく通信大手VerisonがHuffington PostとYahooを買収するなど(Yahooは現在未決)、通信大手によるコンテンツ産業の買収が続くなかでも、854億ドル(約8兆8800億円)に上る通信大手AT&TのTime Warner買収は大きな衝撃をもって受け止められている。
携帯、ワイヤレス、ブロードバンド、衛星と配信手段のすべてを握り、130年の歴史を誇るtelecommunicationの巨人が、去年衛星放送DirecTVを485億ドルで買収したのに続き、コンテンツ総合企業の巨人を手中に収める行動に出たからだ。

一方のTime Warnerはご存じの通り映画スタジオWarner Bros.、ケーブルニュースCNN、TNT、そしてスポーツ専門チャンネルTurner Sportsなどに加え、有料チャンネルの雄HBOを傘下に収めている。HBOはオリジナル作品を積極に制作し、エミー賞の常連となっており、制作能力が高く評価されている。Time Warnerを傘下に収めれば、AT&Tは”Game of Thrones”や”Harry Potter”といったドル箱のコンテンツを手に入れることになる。Time Warnerの株式を市場価格より30%以上も高く評価したAT&Tの姿勢に、是が非でもコンテンツ産業を取得したいという通信産業の強い意志があらわれている。
 一方のTime Warner側もミレニアル世代の台頭で、ケーブル料金収入の減少、広告の減収など、従来型distributionの限界を明確に意識していた。

ライバルであるウォルト・ディズニー・カンパニーの会長兼CEOロバート・アイガーが「いま試みている最も重要なことは、われわれのもつ素晴らしいコンテンツをどのテクノロジーがもっともうまくdistributeしてくれるかを考えることだ」(”The New York Times” 10月23日付)と語っている通りだ。
しかし、2500万の衛星・ケーブル放送受信世帯、1億3000万人のワイヤレス利用者、1500万人のブロードバンド契約者を抱えるAT&Tの市場独占力が、他社の参入を阻害し、自由な競争の障壁になることが懸念されている。共和党のトランプ候補は「取引は成立させない」と息巻くだけでなく、大統領に当選した暁には5年前のComcastのNBCUniversal買収も見直すとしており、民主党クリントン候補も、積極的な反トラスト(独占禁止)を選挙公約に掲げていて、買収に慎重なのも当然と言える。上院の司法委員会反トラスト小委員会も11月に公聴会を開く予定だ。

25日付の”The Wall Street Journal”は、「AT&T、厳しい見通し」と題する記事を一面に掲載して、巨大企業買収が反トラストの壁に阻まれた近年の例を挙げている。取引の成否については、精査におよそ1年がかかる見通しだが、債務引き受けを合算すれば10兆円を超えるこの巨大な買収は前途にまだまだ難題を抱えているにせよ、今後のアメリカの通信、メディアの行方を決するきわめて重要な案件だ。