米国大統領選挙は、共和党のトランプ候補が勝利し、世界中に驚愕が広がっている。しかし、ウォール街は、減税を主張するトランプ候補の当選に冷静だ。その中で批判の集中砲火を浴びているのが、テレビ、新聞などの大手メディアだ。
ほとんどのテレビ、新聞がヒラリー・クリントン候補有利と報じ、ことにFBIが新たなメール疑惑についてクリントン候補を「訴追せず」と発表した6日以降の最終盤には、「ヒラリー候補、強し」と報じられてきた。世論調査に頼りきったヒラリー優勢の予想を、投票所が閉まっても流し続けたメディアへの信頼は、大きく揺らいでいる。
たとえば、ある読者は「あなたたちは長い間間違えていた。あなたたちは読者をミスリードし、あなたがた自身のジャーナリスト的な偏見によって盲目となっていた」という投書をThe New York Timesに寄せ、9日には「ヒラリーのさまざまな政策ではなくトランプの突飛な行動をカバーし続けたメディアに感謝するよ。視聴率、視聴率、視聴率、大事なものはそれだけなんだ」という投書が載っている。
またThe Washington Postには映画監督のマイケル・ムーアが「あなたたちはバブルの中にいて、あなたたちの同胞であるアメリカ人たちに注意を払ってこなかった」と手厳しく批判している。
「隠れトランプ支持」という現象があったにせよ、メディアが世論調査をあたかも投票結果そのもののように扱ってきたことは確かだ。投票日の3日前、2日前でも、世論調査の数字を精緻に分析して大声で入り乱れたトークを繰りひろげる事前番組や両候補とその家族の動向をこと細かく伝える報道がほとんどだった。
選挙結果を読み誤ったことついてはメディア側も真剣に反省し、その原因を追究し始めている。The New York Timesのexecutive editor、Dean
Baquetは「もっと地方に出て、私たちがいつも喋っている人とは違うさまざまな人々と話をすべきだった。ことにニューヨークの報道組織にいる人間は、ニューヨークはリアルな世界ではない、ということを肝に銘じるべきだったのだ」と語っている。The Washington Postではコラムニストが次のように書いている。
「大卒で都市住民で、多くがリベラルなジャーナリストたちは、これまでにもましてニューヨークやワシントンDCや西海岸に住み、働いている。大陸中央部の共和党支持地帯を2、3日取材し、錆びついた工業地帯(Rust Belt)の炭鉱労働者や失業した自動車販売員にインタビューする時でも、われわれは彼らを真剣に取り上げなかった。あるいは真剣さが足りなかった」。
今回のメディアの予測失敗の背景として、地方新聞の衰退と、ローカル局の作る地域ニュースの弱体化、そしてローカル・ニュースが全国に流れる構造が失われつつあることを指摘する声もある。ネットワーク・ニュースの陰で、地方の実態を取材し、地方の問題を都市部の住民たちに知らせる仕組みが、なくなってきているというのだ。こうしたローカル報道の衰退自体が、メディアへの不信感そのものにつながっている、という見解もある(Columbia
Journalism Review, 11月2日付
http://www.cjr.org/first_person/trust_media_coverage.php
ではインターネット・メディアはどうだっただろうか。
今回最も大規模に展開したのはFacebookだ。”Election 2016”というサイトを立ち上げてABC、CNN、The Washington Post、The New York Timesなど大手メディアと組み、また50局を超えるローカル局とも協力しながらlive video streamingをおこなった。YouTubeもNBC
Newsやスペイン語放送のTelemundoとlive streamingを契約を結んだ。しかし独自の事前予測や開票速報はなく、各局、各紙の予想や速報を増幅するにとどまっていた。
むしろ、話題になっているのは、TwitterやFacebookがfake newsの温床となっていたことで、「ヒラリー陣営は放射線攻撃を目論んでいる」とか、「カネで投票結果を捏造しようとしている」、果ては「選挙運動責任者がオカルト的な液体を使っている」などといった情報が無数に飛び交い、突飛な情報であるほど、retweetされて拡散していった(The New York
Times,11月7日付)。
これに対する批判を受けて、Facewbookは11月10日に「フェイスブックはさらにニセ情報の拡散防止に努めます」とする告知を出した。
(https://techcrunch.com/2016/11/10/facebook-admits-it-must-do-more-to-stop-the-spread-of-misinformation-on-its-platform/)
トランプ候補から”rigged”(不正な)メディアと非難されてきた新聞やテレビのメディアが図らずも陥った票読みの過ちは、メディアがどのように信頼を回復していくのか、という根本的な課題をつきつけている。そしてfake newsの危うさをさらけ出したインターネット・メディアは、正確な情報の発信という、これもまた根本的な問題を突きつけられている。