ニュース取材と通信の世界的な老舗、ロイター通信Reutersが、「ロイターのトランプ取材方法 (Covering Trump the Reuter Way)」という告知をスティーブ・アドラー (Steve Adler)
編集主幹名で1月31日に出した。こういった「取材原則」を告知するのも珍しいが、対象に「トランプ大統領」という個人名を入れることは、さらに珍しい。それだけトランプ新政権の前例のないスタートダッシュと無手勝流の情報戦にメディアが当惑している証拠でもある。
言うまでもなくロイター通信は、相場情報を電信で伝えるために1851年に創設された、フランスのアヴァス通信、ドイツのヴォルフ通信とともに、世界でも老舗の通信社だ。2007年にカナダのトムソン社に買収され、トムソン・ロイターとなったが、ニュース部門はいまでもReutersの看板で通っている。
アドラー編集主幹の告知はこう始まる。
「トランプ政権の最初の12日間は(そう、たった12日だ!)、記憶に残るものだ――ニュースビジネスのわれわれにとっては挑戦的だった」
そのうえで自問する。
「さてロイターの答えは? 政権に反対の立場をとる? すり寄る? ブリーフィングをボイコットする? われわれのニュースの場をメディア支持の集会のために利用する?」
編集主幹はこう答える。「われわれはすでに何をすべきか知っている。なぜならばわれわれは、そのことを毎日、世界中でやっているからだ」。――ロイターはイラク、イエメン、中国、ロシア、ジンバブエなど世界の100を超える国で独立した公平な報道をするニュース組織であり、その中にはメディアがけっして歓迎されない国や、検閲やビザの停止、生命への脅しをかける国もある。トランプ政権のメディアへの攻撃がさらに激しくなるのか、法的規制がかかるのかはわからないが、自分たちのやるべきことは同じだ――そしてロイターの全スタッフにこう呼びかかる。
やるべきこと(Do’s)
・人びとの生活にとって大切なことを取材し、人びとがよりよい決定をできるよう、必要な複数の事実(facts)を提供する。
・ニュースソースをこれまで以上に増やす。こちらのドアが閉まったら別のドアを開ける。
・発表モノはやめ、公的なものへのアクセスを少なくする。
・さまざまな土地に行って人びとがどのように生活し、何を考え、何が役に立っているのかを学ぶ。また政府の政策が、われわれにとってではなく人びとにとってどうなっているのかをもっと学ぶ。
・手元にTrust Principles(取材ガイド)を置き、「誠実さ、独立性、バイアスから自由であること」を常に全面的に実践する。
やるべきでないこと(Don’ts)
・脅しに屈しない。
・不必要な戦い(fights)はしない。自分たちについてニュースにしない。内輪のこと を気にしがちだが、ニュースにしたところで人びとがこっちサイドについてくれるわけではないのだ。
・理解はできるが日々のフラストレーションを公衆の面前にださない。
・取材環境をあまり暗くとらえない。これまでわれわれが世界のもっとタフな場所で学んできたスキルを実践するいい機会だ。フレッシュで役に立つ、わかりやすい情報と、報道機関としての見識を提供しようではないか。
そのうえで、編集主幹はこう結んでいる。
「これがわれわれのミッションだ。米国でも、どこででも。われわれはプロのジャーナリズムだ。何ものも恐れず、バイアスをかけない。間違いを犯した時は(間違うことはある)、素早く全面的に訂正する。知らないことがある時は知らないと言う。噂を耳にしたら、それを追跡し、それが事実であると確信した時にのみ報道する。われわれが大事にするのはスピードであって慌てることではない。もっとチェックが必要な時には時間をかけてチェックする。”permanent
exclusive”(どこよりも早いが追っかけのない誤報)は避ける。落ち着いた誠実さをもって仕事をする。それはルールブックに書かれているからではなく、165年にわたり、それがわれわれに最高で最良の仕事をさせてきてくれたからだ」。
ロイターの告知の中に新しいものは何もない。けれどもトランプ新政権のあまりの性急な政策チェンジに浮き足立っているようにみえるメディアにとって、とても大事なことが書かれているように思える。