【FCCの新方針は?――カギ握る「ネット中立性」】

テレコミュニケーション、メディア、テクノロジー(TMT)の世界でのマーケットは、現在およそ11兆ドル(約1232兆円)とされ(The Hill、2月8日付)、経済雑誌Fortuneが発表した「世界の500社」には、TMT分野だけでも米国をベースとする企業は25社を数える。そこにはAppleやMicrosoftなどITの巨人のほかに、AT&T、Verizon、Comcast、Viacomなどの通信大手、それにDisney、21st Century Fox、CBS、NewsCorp、Time Warnerなどの総合メディア企業が名を連ねている。
米国経済の成長分野を担うTMTの将来を左右するのが、テレビ、通信、インターネット事業の規制・監督をおこなう連邦通信委員会(以下FCC = Federl Communication commission)の政策だ。トランプ政権が指名した新しい委員長の下、FCCが活発な規制の見直しに乗りだそうとしている。
 

FCCは各州間の有線やラジオ、テレビなどの帯域の調整・管理の必要性から生まれた組織FRC (Federal Radio Commission)が元になっているが、いまでは事業者への免許の交付・更新、衛星、ケーブルからブロードバンドにいたる通信・放送を監督するだけでなく、通信会社、放送局のM&Aの裁量権を持ち、周波数オークション(Spectrum Auction)の仕切り役でもある巨大な独立機関だ。
 1月23日、新しい委員長に承認されたのは44歳のインド系米国人アジット・パイAjit Pai氏で、通信会社Verizonの弁護士などを務め、2012年からはFCCの委員の椅子にあった。政権発足とともにスタートダッシュを見せたトランプ大統領と呼応するかのように、就任直後から、新委員長はオバマ政権下のFCCが進めてきた通信政策の積極的な見直しを進めている。トム・ウィーラーTom Wheeler前委員長が利用者側に立った政策を進めたのに対して、アジット・パイ新委員長はビジネスの可能性を基本とした政策に軸足を移そうとしている。

たとえば、もともと時代にそぐわないと批判の多かった、同一エリアで新聞とテレビを所有することを禁じた、「テレビ・新聞クロス・オーナーシップ禁止」(the TV-Newspaper cross-ownership ban)は、早い時期に廃止されるだろうし、同一エリアにおいて複数の放送業者が共同で広告を販売することを禁じたJoint Sales Agreements (JSA)の禁止、ひとつのTV会社がカバーする視聴世帯の数が全米の39%を超えてはいけないとするthe Broadcast Ownership Capも見直ししようとしている。
なかでも議論になっているのが「ネット中立性規則」(Network Neutrality rules) 撤廃への動きだ。これはインターネットを一種の社会の公益財とみなして、プロバイダーなどが通信モードやプラットフォームの恣意的な操作などによってアクセスの公平性を差別してはならず、すべてのデータを平等に扱うべきだという考え方で、オバマ政権のインターネット政策の中心だった。

 

一方、これに反対する人びとの理由としては、帯域幅に優先順位をつけることが技術的な前進には必要不可欠で、今後多層化サービスなどの投資を呼び込むインセンティブとなる、という考え方のようだ。公正性については、規制ではなく、企業間の自由な競争によって保たれる、という発想だ。
アジット・パイ委員長は規制緩和とネット中立性規則の撤廃によって企業活動のbottom Line(最終利益)を向上させ、新たな雇用を生み出すとともに、米国経済の成長を促すことを目標に掲げている。
しかしそうなると、低所得層向けのブロードバンド接続料支援を含むLifelineプロジェクトなども見直されることになり、貧富の差によるアクセスの不平等が生まれる恐れがある。
ネットを社会の公益財とみなすのかどうかという議論は、論じる人たちの社会観やイデオロギーにまでからんできていて、なかなか決着がつきそうにはない。