NBC、2018年冬季五輪の戦略を決定

来年のピョンチャン五輪まで1年を切った。米国内で五輪の独占放送権を持つNBCが、放送の基本方針を決めた。その中でも注目を浴びているのが、米国内の五輪放送史上初めて、ニューヨークなどの東海岸からロサンゼルスなどの西海岸まで、五輪競技を全米でライブ放送することだ。
 アメリカには国内に3時間の時差があることから、これまで東海岸の視聴者を中心に組み立てられた五輪番組では、東部と中部地域は五輪をliveで視聴できたが、全視聴者数の20%を抱える西海岸ではdelayによる放送だった。これをNBCは、基本的にすべてliveで放送していく方針に転換した。その背景には、視聴率の低下をいかに食い止めるかという戦略がある。
NBCが独占放送した昨年のリオ五輪の米国内の平均視聴数は、17日間平均で2540万と、2012年のロンドン大会に比べて18%のマイナスだった。その一因として、テレビ放送以外のPCやスマホでの視聴が増えたことが指摘されている。

リオ五輪ではNBCアプリ経由でのOTTのlive streamingは総計で約4500万時間に上り、その一方、テレビ放送では選手を巡る事前企画などの収録モノが多かったことに批判が寄せられていた。そこでピョンチャン五輪では、プライムタイム(午後8時から11時)を中心に、地域横断のlive放送にする、という判断を下したわけだ。
 五輪番組を制作するNBC Olympicsのジム・ベルJim Bell社長は、「ライブ放送、ことにスポーツとその頂点に立つ五輪こそがテレビの背骨である」と宣言していて、今回の判断は「テレビが卓越した媒体であることの再認識」を目指すものだ、と語っている。ベル社長によれば、いまではさまざまなon-demandがあり、テレビは新しいテクノロジーの脅威にさらされているが、五輪とは、視聴者の足を止めさせ、その瞬間を生で見たくさせる稀有なライブイベントであり、それを伝える媒体としては、テレビに勝るものはない、と言いきっている。Live viewerが同時に最もCMを見る視聴者であることも、大きなアピールだ。

『ロサンゼルスタイムズ』紙によれば、米国内で人気の高いアルペン・スキー、フィギュア・スケート、スノーボードなどは東部時間のプライムタイム枠に合わせた競技時間が組まれる予定で、2020年の東京五輪でも2022年の北京冬季五輪でも、このlive coast to coast(東海岸から西海岸までライブ)という方針は変わらない、とベル社長は語っている。こうしたNBCの狙いから行けば、東京五輪では米国内で人気の陸上や競泳、女子体操などの種目は、日本時間の朝9時から12時までの時間帯の競技になりそうだ。
 また、NBCはピョンチャン五輪のliveを地上波テレビ、ケーブル・テレビ、デジタルで同時に展開していく方針だが、デジタルではSnapchatと提携することを決めた。昨年のリオ五輪でもNBCはSnapchatと連携し、約3400万人がSnapchatで五輪を見たと推定されるが、決定が開会式直前までずれ込み、アドバタイザーへの取り組みも遅れたことから、今回は早々に提携を発表した。

NBCにとってもアドバタイザーにとっても魅力なのは、Snapchatのユーザーのほとんどが35歳以下の世代だということだ。
 これに伴って、来年の五輪からNBCは従来の世帯視聴率調査にかわり、”People2+”という視聴率調査を導入する予定だ。これは2歳以上の視聴者が、TV、ケーブルTV、デジタルデバイスのどれを使って視聴しても統計に反映される個人視聴調査で、営業活動もこれに基づいておこなっていくと発表している。
 さらにNBCは、Snapchatで人気のジオフィルターgeofilterやレンズ”lense”といった遊び心をくすぐる広告ツールを五輪に合わせてカスタマイズし、広告媒体として営業していく方針で、Snapchatの提携による収入は5000万ドル(約56億円)から7500万ドル(約84億円)と予想されている。この他にも、五輪競技のハイライト映像は、FacebookやYouTubeなどのon-lineプラットフォームにもアップされる。

NBCとしては、地上波やケーブル・テレビでは鉄壁な独占権で映像を占有しながらも、デジタルに関しては、ありとあらゆるプラットフォームを利用して若年層にリーチし、自分たちの映像をマネタイズしていくという貪欲な姿勢が見えている。
 来年のNBCはピョンヤン五輪以外にも、スーパーボウル、サッカーワールドカップのスペイン語放送の放送権を持っており、スポーツというライブイベントを展開していく中で、デジタルとの新しい試みを積極的に展開していく方針だ。


(参考)
‘NBC’s 2018 Olympics coverage will air live in all time zones’, The Los Angeles Times, 28 March 2017.
‘Snap Inc., NBCUniversal in Deal for 2018 Winter Games”, The Wall Street Journal, 29 March 2017.
“NBC Olympic Sales Pacing Ahead of Sochi”, “B&C”, 29 March 2017.