米国でもっとも多くのローカルTV局を保有するシンクレア・ブロードキャスティング・グループ(Sinclair Broadcasting Group)が5月8日、同じく有力なローカルTVグループ、トリビューン・メディア(Tribune Media Co.) を39億ドル(約4,368億円)で買収することで両者が合意したと発表した(’The Wall Street Journal’,
5月8日付他)。
米国のテレビ局と言えば、ABC、NBC、CBSという3大ネットワークにFOXを加えた4大ネットワークの知名度が高いが、米国にはローカルTV局を束ねて経営する巨大なメディアグループがいくつも存在する。シンクレアは173のローカル局を保有し、そのうち、FOXのローカル加盟局(Affiliate)を14局、CBSのローカル加盟局を6局、経営傘下に置いている。
ちなみに、米国のローカル局は、ネットワーク局の加盟局となっていても、経営的にはネットワークとはまったく別のメディア企業に属するものが多く、その独自のローカルニュースは各地域の視聴者の主な情報源として高い価値を認められているとともに、制作シンジケーションから新旧の番組を独自に買い付けて番組編成を行っている。
一方のトリビューン・メディアは42局のローカル局を束ねるグループで、そのうち14局がFOX、6局がCBS、3局がABC、2局がNBCの加盟局だ。また有力なケーブルネットワークWGN Americaやトリビューン・スタジオ(Tribune Studio)という制作会社、デジタルマルチキャストネットワークのアンテナTV(AntennaTV)も保有している。
今回の買収が注目されたのは、これまで米国のTVメディアを縛ってきた規制――ひとつのテレビ企業のカバーは、全米のTV視聴世帯全体の39%を超えてはならない、という39%ルール――が、F.C.C.(連邦通信委員会)によって大幅に緩和された結果、実現したものだからだ。
トランプ政権によって指名されたF.C.C.のアジット・パイ委員長は、放送・通信を経済成長のエンジンとし、イノベーションと資本の投入を促すことを目標に掲げているが、F.C.C.は4月20日、この「39%」にUHF局は含めないとする「UHFディスカウント」を導入することを決定した。
この規制緩和の動きを受けて、トリビューン・メディアの買収にはウォール街の巨大投資会社ブラックストーン(Blackstone Group)と組んだ21世紀FOXや、やはり有力なローカルTVメディア企業、ネクスター・メディア・グループ(Nexstar Media Group)が名乗りを上げたため、その行方が注目されていた。
この買収によって、シンクレアは全米のTV視聴世帯全体の72%をカバーすることになり、年間の収入は43億ドル(約4816億円)に達すると見られている。また、シンクレアはトリビューンの持つニューヨークやロサンゼルス、シカゴなど大都市圏のローカル局を保有することになり、その影響力が格段に増大することになる。
トリビューン・メディアの買収にこれだけの企業が群がったのは、各社とも規模の拡大を図ることで、ケーブルテレビや衛星放送事業者などの有料テレビ事業者からの再送信料(re-transmission fee)の交渉を有利に進めたいという思惑がある。
ローカルTV局の主な収入源はローカル広告料の他に、こうした有料テレビ事業者からの再送信料が大きな割合を占めている。そして、利用者を拡大しながら質の高いオリジナル作品を連発しているNetflixやHuluなどへ対抗するための基盤固めであることも確かだ。