米国では毎年5月に、その年の秋からのプライムタイムの新シリーズを広告代理店と広告主に売り込む、TVネットワーク各社にとって1年で最も重要なイベント「アップフロントUpfront」が開かれる。今年も5月15日の週に、マンハッタンのリンカーンセンターやカーネギーホール、ラジオシティ・ミュージックホールなどを使って、「アップフロント」が開かれ、広告各社などに新番組を披露され、CMの予約販売の交渉が行われた。
今年の「アップフロント」の広告枠の売上予想は182億ドル(約2兆38億円)で、昨年比2%減と見られている。
それぞれのネットワークが売り込みに必死だが、FOXは来年の復活祭にライブで放送する予定のロックオペラ”Jesus Christ Superstar Live!を前面に押し出す。米国のネットワークではLive musicalがトレンドとなっている中での大型リバイバルだ。
ABCは、去年までFOXで放送され、一時は3000万視聴数を誇って一世を風靡し、若者層に人気のあったオーディションのリアリティ番組”American Idol”をリニューアルスタートする。NBCは来年のピョンチャン冬季五輪に加え、スポーツイベントの頂点「スーパーボウル」の来年の放送権を獲得しており、大ブレークした家庭ドラマ”This is
US”の新シリーズとともにおおいにアピールしている。
しかし、例年のような番組宣伝とは別に、各ネットワークが力を入れているのは、視聴層の細分化に対応した広告リーチの方策だ。
ニールセンの調査によると、広告主がもっともリーチを望む18歳から49歳の層は、5年前には36%がTVのプライムタイム番組を見ていたが、最新の調査では28%まで下落している(”Los Angeles Times”, 15 May)。また視聴者は番組途中に広告のないNetflixやAmazon Prime
VideoやCM飛ばしのDVRに流れる傾向がますます強まっており、ネットワーク各社も苦戦を強いられている。
こうした現状を見据えて、TV各局はAmazonやGoogle、Facebookなどと提携してブラウザー・データを利用し、個別の消費者に届くターゲット広告を企画することも計画している。ニールセンのデータをさらに他の詳細な個人データによって補完するために、デジタルメディアやpay-TVのデータ、それに商務省の国税調査局 (US Census
Bureau)のデータまで利用した独自の視聴層データ分析を競い合っているのだ。
また、21世紀FOX、Time Warner, Viacomが共同してデータ分析と広告販売の基準を作ろうという動きもある。これは”Open
A.P.”と呼ばれるもので、この大手三社による共通の基盤づくりはきわめてユニークな試みだ。NBCUniversalも、この「アップフロント」では、ニールセン以外のデータ・マトリックスを利用する広告販売提案によって、10億ドル(約1120億円)以上の売り上げを目標としている。NBCUniversalのマーク・マーシャル副社長は「われわれは広告主が適正な人びとにリーチすることを保証する次の段階に移った」と語り、
NBCUniversalは、親会社である通信大手Comcastの持つ2300万件の個人データを利用して、従来のニールセンの年齢、性別などの属性より遥かに詳細なデータに基づいたきめ細かな広告提案を最大の売り込み策としている。たとえば、NBCUniversalは小型SUV車を売り込みたい自動車会社に、データ分析からこうした車種に興味を持つ消費者がもっとも多く視聴する自系列のケーブル・衛星チャンネルSyfy
Channelへの広告提案を行った。
2012年には368億ドル(約4兆1216億円)だった全米のデジタル広告費が、今年は830億ドル(約9兆2960億円)を超えると予想されているが、TVネットワーク各社は、1000万人を超える人びとに一つの番組でリーチできるメディアはTV以外になく「投資によって最大限のリーチとリターンを得ることができる」(CBS)とTVの強さを訴えかけている。またYouTubeなどで、犯罪動画や殺人動画がアップされ、スポンサーが下りたことなどを引き合いに、「TVは広告主のブランドに傷をつけることはない。安心して広告をまかせることのできるメディアだ」
(NBC)と、TVのチェック機能の安全性を広告価値の重要な要素としてアピールしているのも今年の大きな特徴だと言える。
※図は左がアップフロントでの広告収入。右が18-49歳のPT視聴率の変化