FOX Newsを創設し、4大ネットワークに育て上げた立役者、ロジャー・エイルズRoger Ailes前会長が5月18日、くも膜下出血で77歳の生涯を終えた。エイルズは米国TV界でも際立った個性と戦略をもち、つねに共和党選出の政権と緊密な関係を保ち続けた人物だった。
1940年にオハイオ州の労働者の家庭に生まれたエイルズは地元のNBC系列のテレビ局でトークショー番組のプロデューサーとしてその経歴をスタートし、ゲストとして出演したリチャード・ニクソンとの出会いが運命を形作っていく。
1970年1月、すでに共和党選出の大統領となっていたニクソンは、選挙戦の時から助言を受けていたエイルズをメディア補佐官として登用する。1960年にジョン・F・ケネディにテレビ討論で破れて以来、テレビ映りはニクソンにとってトラウマとなっており、カメラの前にどう立ったらいいのか、カメラの前では電話の受話器を右手でとるべきか、左手でとるべきかさえ迷うほどだったという(’The New
York Times’, 19 May)。
大統領リチャード・ニクソンの下でエイルズは、「無視され、忘れられた白人層」が抱える、リベラルな文化エリートに対する怒りが政治的パワーになりうることを学んだ。稼いだ金をワシントンのエリートたちの決めた政策と税金で持って行かれる白人層の怒り、という意味では現在のトランプ大統領につながる政治的パワーの源泉を嗅ぎ取ったのだろう。それ以降、エイルズはロナルド・レーガン、ジョージ・H・ブッシュや共和党議員のブレーンとなり、去年の選挙でもトランプ陣営の重要な選挙参謀をつとめた。
1996年10月7日、エイルズはルパート・マードックとともにFOX Newsを設立する。FOX News のモットーは「公正さとバランス」であり、「われわれは報道する。判断するのはあなただ」というスローガンを掲げた。ちなみにいまのFOX Newsの報道番組はトランプ一辺倒だ。それからのエイルズは、まさに破竹の勢いだ。ことに2001年の911同時多発テロ以降、FOX
Newsは「アメリカ・ナショナリズム」を前面に打ち出し、イラク戦争への旗振り役となった。
ニュース番組も派手なグラフィックや効果音を多用し、金髪の女性キャスターには必ずスカートで出演させるなど、盛んにショーアップの手法を取り入れた。エイルズ自身、「エンターテインメントとニュースは常に分けるべきだが、それを分ける分岐線の真上に立ち、その線上で爪先立ちしなければならない」と語っている。このころからFOX Newsの視聴率は大きく伸びていく。2002年1月にはCNNを抜いて、「もっとも見られているケーブル・ニュース局」となり、昨年の利益は16億ドル(約1792億円)に上る、「もっとも稼ぐケーブル・ニュース局」となって現在に至っている。しかし、その一方で視聴者が男性中心で平均年齢が68歳という、かなり特徴的なチャンネルでもある。エイルズ自身は去年の夏、女性キャスターからセクハラで訴えられ、FOX News会長の職を去った。退職金は4千万ドル(約44億8000万円)と言われている。しかし、複数の女性から訴えられたセクハラ訴訟の費用は4500万ドル(約50億円)に上る見込みだ。
エイルズはFOX Newsの会長職を去った後も、トランプ候補のアドバイザーとして
選挙戦に助言を与え、1月の就任式以降も、トランプ大統領と頻繁に連絡をとっていたようだ。最近ではFOX Newsに代わる保守派の拠点となるデジタルメディアでのニュースサイトを構想していたと言われている。