米国内でもっとも人気の高いプロスポーツ、アメリカンフットボールの2018年シーズンの木曜夜11試合はFOXが放送することに決まった。シーズンは9月からだが、毎年早くもこの時期には、どのネットワークが放送権を取るか、大きな話題になる。
NFL(ナショナル・フットボール。リーグ)の試合は毎年高視聴率を獲得し、去年も視聴率トップ50番組のうち、33番組を占めたほどで、NFLの頂点スーパーボウル中継については言うまでもない。
FOXが契約したのは、木曜夜の放送権で、5年契約、総額で33億ドル(約3663億円)となる。1年間では11試合、6億6000万ドル(約726億円)となり、1試合にすれば6000万ドル(約66億円)だ。これは昨年のNBC・CBS連合による年間契約料4億5000万ドル(約495億円)から47%アップもした額だ。
しかし、さすがのフットボール中継もここ2年間、広告収入は足踏み状態で、NBC・CBS連合はおよそ2億ドル(約220億円)の赤字だったと言われている。あるアナリストは、この木曜フットボールによるFOXの今年の予想赤字額を3億6000万ドル(約396億円)とはじき出していて、実際、この契約が決まった1月31日、FOXの株価は4.1%下落した。
しかし、ここにはFOXの大胆な戦略がある。
去年12月にDisneyへのアセットの売却を決めた時、ルパート・マードック21世紀FOX会長は「ライブ・スポーツとニュースがFOXの将来をになう大きな領域だ」と語ったが、今回の木曜中継を決めた二男のジェイムズ・マードックも「この契約はきわめて大きな意味のあるものだ」と力説している。
この背景には、ここ3年のネットワーク各局のプライムタイム平均視聴率が、大きく下がっている現状がある。なかでもFOXは2014年に比べて29.7%減となっていて、まずNFLを平均視聴率アップの特効薬として利用しようという意図が明白だ。
さらにFOXはDisneyとの取引で、ドラマ、エンタメを作ってきた制作部門20世紀FOXテレビジョン・スタジオを手放すことになっている。一方で、FOX Sports 1のスポーツ専門チャンネルと、いまや大きな人気となりつつあるカレッジ・スポーツの専門スポーツチャンネルBig Ten Networkは手元に残すが決まっている。
実は昨シーズンのフットボール中継全体の視聴率が10%(前年比)下落し、木曜日も12%下がっている。しかしそれでも1200万視聴は、常に他局の裏番組を上回る優良コンテンツだ。また、木曜のゲームの動画配信権もFOXが独占する見込みだ。ジェイムズは「NFLはテレビであまりにも番組を増やしすぎて、それがここ2年の視聴率低下を招いている」と、試合中継以外にもフィーチャーする特集やフットボール中心のスポーツニュース番組の増加に苦言を呈していて、NFLに改善を求めていく可能性もある
ニュース番組とケーブルの24時間ニュースでは圧倒的に強さを誇るFOXが、まさに総帥ルパート・マードックが言った「ライブ・スポーツとニュースがFOXの将来をになう」という方向へ積極的な一歩を踏み出した契約であることは確かだ。