AT&Tとタイム・ワーナー合併の独占禁止裁判始まる

 

 3月22日、AT&Tによるタイム・ワーナーの買収が独占禁止に抵触するかどうかを争う裁判がワシントンで始まった。

 この850億ドル(約9兆4350億円)に上る買収劇は、2016年10月に発表されたもので(アメリカ・リポート2016年10月26日付参照)、携帯、ワイヤレス、ブロードバンド、衛星など、配信手段のすべてを握り、130年の歴史を誇る電話通信の巨人と、コンテンツ総合企業の巨人タイム・ワーナーの合併は、今後の米国のテレビ業界の将来を占うものであるため、大きな注目を集めている。

 裁判の争点は明確で、「この巨大な買収によって、消費者がタイム・ワーナーの提供する番組を見るために、これまでより高い料金を支払わざるをえなくなるか否か、またこれによって市場の公正な競争が阻害されるか否か」という点だ。

 司法省は、

・AT&T にとっては「コンテンツ」こそが最大の武器であり、今回の買収はAT&Tがタイム・ワーナーという優良コンテンツ制作者の「武器」を利用して契約料を上げることにつながる。

・全国的なワイヤレス、衛星網を保有するAT&Tは、ライバルとなるケーブルや動画配信企業の使用料金を引き上げて割高にすることで、競争を有利に進めることも可能だ。

・その結果、公平な競争を阻害し、消費者の不利益につながり、消費者の蒙る損失は一年間で4億3600万ドル(約492億円)にのぼる。

――と陳述している。

 一方、AT&T側は、新しい時代はAmazonやNetflix、Facebook、Googleといったシリコンバレーの巨人たちとの競争を強いられているが、こうしたインターネット企業は広告市場を独占しており、動画配信も規制がなく、司法省側の見解は時代遅れだ、と指摘したうえで、今回の買収合併が消費者に価格転嫁されることはありえない、と反論した。

 この巨大買収劇は、タイム・ワーナーの抱えるニュース専門ケーブルチャンネルCNNを天敵とするトランプ大統領が、選挙運動中から、「認めがたい」と公言していたことから、政治介入があるのか否かをめぐっても大きな関心を呼んでおり、裁判所にはメディアや法律専門家など数百人が集まり、AT&Tのランドル・スティーヴンソンRandall Stephenson社長やタイム・ワーナーの会長兼CEOジェフリー・ビュークスJeffrey Bewkes氏も、傍聴席でそれぞれの冒頭陳述に耳を傾けるなど、この裁判の大きな意味合いをうかがわせた。

 裁判は6週間から8週間続く見通しで、60人の証人が出廷する予定だ