中立性装うプロパガンダ放送?――シンクレアの「マスト物件」

 

  全米で193局のローカル局を保有する最大のローカルTVメディア「シンクレア・ブロードキャスティング・グループ」(Sinclair Broadcasting Group)が、トランプ大統領の進めるメディア・バッシングに呼応する形で、保有する全米のローカル・ニュースで一斉に次のようなプロモーション原稿をMCに読ませ、批判を呼んでいる。

 

ハーイ、A) です。そしてB)です。

B)私たちの最大の責任はコミュニティに貢献することです。私たちは自局のニュースの質とバランスのとれたジャーナリズムをたいへん誇りにしています。

A)しかし無責任で一方的なニュースがわが国に害毒をまき散らしている厄介な傾向を心配しています。バイアスのかかった嘘のニュースをシェアすることが、ソーシャル・メディアではあまりにも一般的になってしまいました。

B)もっと警戒したいのは、いくつかのメディアはこうしたフェイク・ニュース、真実ではないニュースをファクトチェックもせずに垂れ流していることです。

A)残念なことに、そうしたメディアのなかには、自分たちの局や番組を使って、自分たちの個人的なバイアスを押し付け、「人びとの考え」をコントロールしようという人たちもいます。これは民主主義にとってきわめて危険なことです。

B) 私たちの局では真実を追求しいレポートすることは私たちの責任です。私たちは「真実」とは政治的な「左でも右」でもないことを理解しています。私たちがファクトを伝えることは、これまで以上に、私たちの信頼の基本です。

A)しかし私たちも人間ですから、レポートが間違えることも時にはあるかもしれません。もし私たちの報道がアンフェアだと思ったら、私たちのサイト….news.comにアクセスして「コンテンツに疑義あり」をクリックしてください。皆様のコメントを大切にいたします。返信いたします。

B)私たちは真実を求め、フェアでバランスのとれた、そしてファクトに基づくことに努めています。それが私たちの誇りであり、責任を持って毎日ニュースをお届けするものに与えられた特別の権利だと考えています。

A)ご覧いただきありがとうございます。フィードバックをいただければうれしく思います。 

 

 

 これだけ読むと「中立的」なステーション・メッセージに見えるが、もともとシンクレアは、FOXと並んで極端な保守的論調で知られているだけでなく、トランプ大統領の元側近を政治コメンテータに据え、ロシア疑惑を「魔女狩り」と断じるなど、常に政権のメッセンジャー的な役割を果たしてきている。

 

 しかも、これまでも”must-run”と呼ばれる「是非モノ」を、保有するローカル局に強制してきた歴史がある。もちろん米国でも通常はnews roomの独立した編集権は尊重されており、上記のようなステーション・メッセージが全国一斉に流されることはきわめて稀だ。

 

 トランプ政権に沿った主張を無批判に流してきたシンクレアが「中立性」を装うmust-runメッセージを流したことが、実は政権寄りのプロパガンダだとして批判の対象となっているわけだ。しかもシンクレアは同じく多数のローカルTVを保有するトリビューン・メディアの39億ドル規模(約4329億円)の買収を進めており、これが認められるか否かは政権の思惑にかかっている状態だ。

 

 トランプ大統領はシンクレアへのこうした批判に対して、「私の知る限りもっとも卑劣な人びとのいるフェイク・ニュース・ネットワークがシンクレアをバイアスがかかっていると批判するのを見るのは滑稽だ。シンクレアはCNNやもっとひどいフェイクNBCよりずっと素晴らしい。批判はジョーク以外の何物でもない」(4月2日)とTweetしている。