コムキャスト、フォックスと全面戦争か――コンテンツ巡る現ナマの闘い

  米国ケーブル通信大手コムキャストが投資銀行につなぎ融資を求めた、という情報をロイター通信が’Exclusive’として流したのは5月7日だった。そのつなぎ融資を含めた600億ドル(約6兆6600億円)を元手に、コムキャストは21世紀フォックスの事業をすべて現金で買収しようという計画だ。コムキャストが買収をもくろむフォックスの事業とは、20世紀フォックスTV、映画スタジオ、ケーブルネットワークなど……。これは去年12月にディズニーとフォックスとの間で524億ドル(約5兆8100億円)で買収合意されているアセットだ。

 実はコムキャストはディズニーが買収に乗り出す前に、フォックスに600億ドルで買収を持ちかけたが拒絶された経緯がある。そこで今回コムキャストはディズニーが提示した額に16%のプレミアムを乗せて敵対的買収に入ろうと、最終的な準備を進めている、というわけだ。このプレミアムも株主には魅力だが、すべて現金払いという意表を突いた作戦だ。

 ただし、コムキャストも買収への最終決定は下していない。AT&Tとタイム・ワーナーの反独占裁判の行方を見守ったうえで、司法が大型買収にゴーサインをだせば、本格的に行動に移る予定だという(Reuter, Wall Street Journal、5月8日付など)。

 コムキャストは通信大手であるとともに、NBC、ユニバーサル・ピクチャーズなどを傘下に収める総合コンテンツ企業だが、今後のネットフリックスやアマゾンとのコンテンツ制作と動画配信の苛烈な戦いを念頭に、スケール、リーチ、ブランディングを考慮したうえで、フォックスの保有する優良な制作スタジオとその配信機能を押さえておきたい、という狙いだ。それとともに、Huluの支配権を誰が握るか、という戦略もからんでいる。

  現在、Huluの株はディズニー、フォックス、コムキャストが30%ずつ持ち合っており(残り10%はタイム・ワーナーが保有)、今回フォックスの事業を獲得する者が、30%の株式を取得することになり、Huluの経営に影響を与えることができる。これは今後の動画配信戦略にとってはきわめて重要なアセットだ。

 これに加えてコムキャストは先月25日には、フォックスが筆頭株主となっている英国の衛星放送大手スカイに、総額220億ポンド(約3兆3000億円)で正式な買収提案を行い、ここでも、16%のプレミアムを提示してフォックスとの間で争奪戦に入っている。スカイはメディア王ルパート・マードックが育てた放送局で、英、独、伊などで2300万人の視聴者を抱える、欧州のコンテンツ配信では核となっていくことは確実だ。コムキャストはスカイを足がかりに欧州での成長を目論んでいる。

 このスカイも去年12月のディズニー買収のアセット目録に入っており、コムキャストが、プレミアムと現ナマにものを言わせて直接株主に訴え、すでにディズニーへの売却が決まっているフォックスのアセットを資本の論理で引きはがす作戦に打って出るのか、きわめて注目すべき動きだ。