合併話から因縁の法廷闘争へ――CBSとViacom

 

 三大ネットワークの一角CBSと、MTVやパラマウント映画などを傘下に収めるメディア・グループViacomの合併話は、今年一月から再浮上していたが、5月14日、CBSの特別取締役会は、両社の株式の80%を握り、合併への流れを進めるホールディング会社National Amusements Inc.とその所有者レッドストーン家を、CBSのガバナンスを阻害しているとして提訴した。実質的には合併への捨身の抵抗だ。

 今回の合併の流れはViacomの創業者の娘で持株会社の社長であり、両社の副会長も務めるシャリー・レッドストーンが中心となって進められてきた。しかし、合併の際のCBS株の値付けの問題や、合併後のトップ人事を巡って、CBS側とシャリー・レッドストーンとの間に大きな溝があり、交渉は暗礁に乗り上げていた。

 ひとつの会社だったViacomが、2006年にCBSとViacomに分社化されたのは、シャリーの父親でカリスマ的創業者であるサムナー・レッドストーンの意向によるもので、当時は成績不振のCBSの切り離しともいわれた。しかしCEOレスリー・ムンヴェスの編成手腕によって、CBSは3大ネットワークの最下位から「アメリカでもっともよく見られているテレビ」へと上り詰め、企業価値を高めた。

 

 今回の合併話では、このCBSの功労者であり実力者であるCEOレスリー・ムンヴェスの後継者をめぐる争いが、法廷闘争にまで発展した形だ。CBS側は合併後の会社のトップはムンヴェスが務め、現在CBSのCOOであるジョー・ヤニエッロが合併会社のCOOに就く、という人事案を推しているのに対し、シャリー・レッドストーンは、自らの方針に従うViacomのCEOボブ・ベイキッシュを合併後の後継に据えたい意向だ。

 

 これに納得できないCBS側は、今月17日に特別取締役会を開いて、「Viacomとの合併はCBSの全株主の最大利益とはならない」という決議をし、定款を変更してCBSの全株主に投票権付特別株を付与することによって、レッドストーン家の80%の投票権比率を17%にまで下げ、レッドストーンのイニシアチブを切り崩す予定だった。しかしシャリー・レッドストーン側が17日の特別取締役会の開催阻止に動いたため、ガバナンスへの不当な介入だとして、CBSが裁判所に訴え出たということだ。

 

 AT&Tとタイム・ワーナーの日本円で9兆円を超える買収提案や、ディズニーとフォックスの5兆円を超えるアセット売買契約にコムキャストが割って入るなど、通信とコンテンツの大型合併が話題になる中で、CBSとViacomは明らかに出遅れている。  

 別掲図でも明瞭だが、両社が合併しても時価総額はタイム・ワーナーや21世紀フォックスの約半分にすぎず、コンテンツ総合企業としてはけっして大きくない。このままではNetflixやAmazonなど、オリジナルの動画配信に巨額の投資を進めるOTTに対抗するには不安が残る。

 シャリー・レッドストーンは、CBSとViacomの合併をテコに、次は通信大手Verizonとの交渉に入るつもりだと言われているが、もし負ければ取締役の大幅な更迭もありうる今回の提訴は、ムンヴェスCEOを中心に結束するCBSが、創業家のイニシアチブに対して決定的な闘いに打って出たといえるだろう。