コンテンツ戦略を進めるAT&T――Otter Mediaグループを買収

 

 米国大手通信AT&Tによる、854億ドル(約9兆3940億円)におよぶタイム・ワーナーの買収合併は、6月12日に事実上承認されたが(米国司法省は上訴中)、AT&Tはコンテンツ充実という経営戦略を、スピード感をもって進めている。

 その中でも注目すべきは8月7日に成立したAT&TによるOtter Mediaの買収だ。

  5年前の2013年7月12日、AT&Tとメディア企業Chernin Groupは、Huluを買収しようとしたが、Hulu側が提案を拒否したことがあった。それでもChernin Groupの総帥ジェッセ・ジェイコブズは、「ハリウッドの未来は動画配信にある」と信じて、買収提案がHuluに拒否された翌日、アニメ動画専門配信の小さな企業だったCrunchyrollの買収交渉を始め、結局7500万ドル(約82億5000万円)でCrunchyrollを買い取った。ジェイコブズたちはこれを軸にして、動画配信に不可欠な周辺技術をもつ複数の小規模企業を買収し、Otter Mediaをいう持ち株会社を設立した。

 今回、AT&Tが買収したのはこのOtter Mediaで、買収金額は10億ドル(約1100億円)を超えると見られている(New York Times、8月8日付)。

 これは、企業価値を10倍以上にして買収にのったOtter Mediaにとっても大躍進だったが、AT&TとWarner Mediaにとっては、今後のコンテンツ戦略に欠かせない買収だ。すでにWarner Bros.にはインターネット・ゲームのMachinima、”Scooby-Doo”などのカートゥーンコンテンツを持つBoomerangなどを保有しているが、今回買収したOtter MediaはYouTubeスターやオンライン・クリエーター用の制作スタジオ、広告代理店Fullscreenをもち、ゲーマー向けのビデオ制作会社Rooster Teethを保有するほか、ニッチな11のオンラインチャンネルを備えるVRVという動画サービス会社を傘下に収めているし、Gunpowder & Skyというデジタルスタジオもあり、インターネット・ゲームや動画制作から配信、広告までタテの流れを一貫して手中にしたことになる。またOtter Mediaの動画配信にはすでに200万人の有料契約者がついていることも強みだ。

 

 この背景には、「あらゆる種類のコンテンツをあらゆる配信チャンネルを使ってコンシューマーに届ける」という、AT&Tの基本戦略がある。

 AT&Tは自社の通信事業での携帯電話を通じて得た膨大なデータを、ターナー傘下のネットワーク、CNNやTNTのターゲット広告に活かすことを目論んでおり、そこにOtter Mediaのデータが有効な武器として加わることになる。

 Otter Mediaの ジェイコブズ社長は、ニッチなファンを大切にすることが、これからのメディアには重要だと言う。ニッチなファンはとんでもなく情熱的で、動画だけではなく、リアル・イベントのチケットやグッズを購入してくれ、広告に敏感に反応してくれるコンシューマーだとしている。