物議醸すトランプ大統領制作の投票CM――NBS、FOXがOAから外す

 

 米国の選挙では政治的CMがほとんど野放し状態で、ローカルTV局やネットワークの収益を大きく支える一方で、相手候補や対立する党派への誹謗中傷を繰り返していて、民主主義そのものを棄損するのではないか、という大きな問題を抱えていることは、すでに報告したが、トランプ大統領が制作した共和党への投票を呼びかけるCMが、NBSやFOX Newsでオンエアーされたものの、11月5日になって、両局ともオンエアーから外す事態となった。

 このCMは、メキシコから非合法に米国に入国し、二人の警察官を殺害したブラカモンテスという犯罪者が、法廷で不敵な笑みを浮かべて「もっとオマワリを殺してやるよ」と陳述するシーンに「民主党はこうした男をこの国に入れ、この国に滞在させようとしている」というテロップが流れるもので、その後に、大量の移民たちがフェンスを乗り越えていく情景をインサートしている。そして大統領のヴォイスオーバーが「われわれの達成した、すばらしいことが、この選挙で危機に瀕している」と語る30秒スポットだ。

 

 トランプ大統領は、このCMで民主党の移民への寛容な政策が、犯罪者を米国内に導き入れ、治安の悪化を招くことをアピールし、移民に厳しい制作を取る共和党への投票を呼びかけたかったのだろうが、CMでは、あたかもすべての移民が犯罪者であるかのように扱われている。このCMは11月1日から大統領のツイッターで流されるだけでなく、1000万以上の視聴数を誇る日曜のNBCの人気スポーツ番組Sunday Night Footballでもスポットとして放映された。ツイッターで流れ始めてすぐ、「歴史上もっとも人種差別的政治CMだ」という批判の声があがっていたため、ネットワークのスポットで堂々と流れたこと自体に、多くの驚きの声があがった。

 しかし、投票日前日の11月5日になって、NBCとFOXはオンエアー中止を決めた。NBCの声明では、「あらためて見直した結果、このCMが心無い性質のものであることが認められたため、ただちに放映中止を決めた」と苦しい言い訳をしている。NBCに続いて放映中止を決めたFOXも「見直した結果、FOX NEWSは広告中止を決めた」と同じような声明を出している。

 CBSやABCにはこのCMのオファーそのものがなかったようだ。

またCNNは以前からトランプ大統領のCMは人種差別的であるため、放送しないと決めているが、大統領の息子のドナルド・トランプJrは、「CNNは放映を拒否した」とツイートしている。これにたいして、CNNは、「このCMは人種的であると何度もはっきり述べている。カネを払うから放送するようにというプレゼンを受けた時点で拒否した」と事実関係を明らかにしている。