テレビ・ドラマのジレンマ

 

『ウォールストリートジャーナル』紙が「テレビの未来はテレビの過去にうり二つ」’TV’s Future Looks Like Its Past”という記事を掲載した(12月1-2日)。これは、最近の米国ネットワークのドラマやシチュエーション・コメディの多くが過去のシリーズの焼き直しか、コンセプトを現代風にリニューアルしたものであることを分析した記事だ。視聴率を確保し、アドバタイザーの要求に応えることが使命であるマスメディアとしてのテレビが抱えざるをえないジレンマと方向性を示す記事となっている。

(以下はその要約。英語の全文は以下を参照してください

https://www.wsj.com/articles/network-tv-tries-a-new-strategyold-drama-1543592714?mod=searchresults&page=1&pos=1

 

 米国4大ネットABC、CBS、NBC、Foxの世帯視聴率(ライブ、同日視聴)は、この10年で35%ダウンし、DVRや7日間視聴を含めても25%の減少となっている。ライブ・スポーツだけが気を吐いているといえる。

 18~24歳までの層に限ると、2017年の1週間あたりのテレビ平均視聴時間は14.5時間で、前年比マイナス11%となっている。

そこにはネットや動画配信プラットフォームの影響がある。2018年のニールセンの調査によれば、35~54歳の年齢層でも18%が、テレビをオンにしたときのセット画面にNetflixが設定されていて、これは1年前の11%から7ポイントも上昇している。

 

 ネットワーク番組は放送基準に合うために十二分に安全安心(safe enough)でなければならないのだ。ネットワークの狙いは大量の視聴者を引き付けアドバタイザーのギャランティーに応える、というたいへん限定されたものになってしまっている。CBSエンターテインメントのケリー・カーン社長は「ネットワーク以外には500を超える番組(scripted shows)があるが、そのほとんどが100万視聴以下だ。狭く限られた視聴者に届くよう作られている。しかしわれわれが演じているのは別のゲームだ。われわれはとんでもなく巨大な視聴数をもつネットワークだ。その番組は75万ではなく1000万人にリーチするようデザインされているのだ」と語っている。

 「先祖帰り」「ノスタルジー」を前面に押し出すことは、ネットワークのひとつの戦略でもある。ディズニー・ABCテレビジョングループのエリザベス・スローン副社長が言うように「ノスタルジアは重要です。人びとがなじみのある物ごとへ戻ることによって、人びとに安全安心safeを感じさせることができる」のだろう。

 そうしたネットワークの「ノスタルジー戦略」のいちばんの危険性は、テレビ視聴者の高齢化傾向だ。昨年のネットワーク番組の視聴者平均年齢は59.3歳で、4年前の53.9歳に比して5.3歳高齢化している。70年代、80年代、90年代のテレビで育った視聴者を対象としたネットワークの「レトロ戦略」は、その時代に生まれてもいない若い人びとにはアピールしないだろう。

 そこでネットワークの若年層をつなぎとめる新たな戦略は、OTTを駆使し、彼らがどこで、どんな形で動画を見ていようが――スマホだろうがたとえ競争相手の同業他社のプラットフォームであろうが――いつでも彼らにリーチすることなのだ。たとえばNBCはエミー賞の授賞式の間中、自社制作コメディ”The Good Place”のネットフリックスでの視聴をアピールし続け、その結果、新シリーズの視聴数を増やすことにつながった。