たとえ投資ファンドのアナリストであっても、第三者によるM&Aの予想は、競馬の予想と同じようなもので、ある種無責任だが業界の勢力関係や各社の狙いを知るには便利だ。
4大ネットワークのCBSとViacomをめぐるM&Aの憶測がまたしても広がっている。これがもともと一つの企業体だったCBSとViacomだけの合併話なら聞き飽きた話だが、今回は伸長著しいDiscoveryやNetflixがその相手として触れられているだけに無視できない。
CNBC(1月31日)によると、CBSとViacom両社のシャリー・レッドストーン副会長が、CBSとViacomを再統合する計画をもっていることは周知だが、レッドストーンはそのM&Aの後にDiscovery CommunicationにM&Aを仕掛ける戦略で、DiscoveryのザスラフCEOも、CBSとのM&Aに乗り気だと伝えている。
理由の一つはCBSが2022年に期限切れを迎えるNFL(ナショナル・フットボールリーグ)との放送権の再交渉を見据えた動きだ。CBSの時価総額は約190億ドル(約2兆1000億円)、Viacomは120億ドル(約1兆3300億円)で、これに200億ドル(約2兆2200億円)のDiscovery Communicationを加えて、バランスシートを厚くし、契約権交渉ではAmazonなど潤沢な資金をもつ対抗馬に備えようという狙いだ。
もう一つの理由として、DiscoveryはAnimal Planetや Food Channelなどコンテンツの世界展開を進めていて、ことに欧州ではフランスのTF1を買収し、傘下のユーロスポーツを抑え、五輪の欧州独占放送権を獲得するなど、スポーツ分野でも目覚ましい動きを見せていることだ。ここまでDiscoveryのジョン・マローン会長は、比較的小さな企業を次々に買収して巨大企業に成長してきたが、Netflixなどとの「規模」と「資金力」と「ブランド力」の闘いには、CBS-Viacomグループとの一体化は有益だという見方だ。Discovery はカナダの映画会社Lions Gateも傘下に収めている。
一方、同じく1月31日付の『ハリウッド・リポーター』は、CBS-Viacomグループは、傘下のParamount映画を切り離してNeflixに売却するのではないか、という観測を書きたてている。Netflixとしては、今年動画配信を始めるDisneyやWarnerMediaが自社作品の囲い込みを進めていることから、オリジナル作品をコンスタントに作り続けるために、力量ある制作スタジオをのどから手が出るほど欲しがっているからだ、と言う。
しかしそれと同時に『ハリウッド・リポーター』は、時価総額1490億ドル(約16兆5300億円)の巨人Netflixは、Viacomをまるまる買収して、MTVやComedy Central, Neckelodeonといった有料チャンネルをそのまま手にいれることも可能だと指摘している。ある投資アナリストは、Netflixの資金力からすれば、CBS-Viacom,Paramoutを一括してM&Aし、一挙にABC、NBC、FOXに並ぶ巨大総合コンテンツ企業になることもありうる、と述べている。
いずれも頭の中のシミュレーションに過ぎないが、巨大な再編の動きは、米国市場の動きはここ数年、アナリストの想像力を超えて展開してきており、空論とばかりは言っていられないだろう。