米国テレビ界にとって、もっとも重要なイベント、Upfront(アップフロント)が今週から始まる。ネットワーク各局が秋からの新番組をアピールし、アドヴァタイザーとスポットCMの契約をかわす華やかな商談の場だ。
その力の入れ様は、各局がアップフロントに使う場所からもうかがえる。NBCは本社のあるロックフェラーセンターから至近のミッドタウンのラジオ・シティー・ミュージック・ホール、Foxは1929年に建てられ、ニューヨークでももっとも格調高いアールデコ様式のビーコン・シアター、ABCは芸術の殿堂リンカーン・センター、そしてCBSはカーネギー・ホールでのプレゼンの後はプラザ・ホテルでのカクテルパーティだ。
昨年のアップフロントでは、プライムタイムのアドスロットで4大ネット合わせて90億ドル(約9900億円)の売上を記録したが、4大ネットとは別にケーブルテレビ各局は、合計で110億ドル(約1兆2100億円)をこの期間に売り上げている。総計200億ドルは前年比5%アップとなっており、4大ネットに限定すれば、2014年からほぼ毎年3から10%と、着実にアップフロントでの売上は伸びている。だがテレビ各局は全CMスペースをアップフロントで売り切るわけではなく、シーズン最中の飛び乗り分も開けておくが、価格は15%から40%アップとなっているようだ。
この5年間に、18歳から49歳の視聴層の視聴率が38%もダウンしていることを考えると、アップフロントでの売上の伸びは注目に値するだろう。インターネットやOTTが普及し、若年視聴層が流出する中、テレビはブランド価値を下げるのではなく、逆に視聴者がフラグメント化したネットにはない、「一度にリアルタイムで大量の視聴者にリーチできる」という特徴を最大限にアピールしているからだ。テレビ各局はそのテレビ体験を、”togetherness”(トゥゲザーネス)というキャッチフレーズで前面に押し出し、「リアルタイムで一緒に同じものを見る経験」として価値づけている。YouTubeなども数百万のviewerを獲得するが、リアルタイムで同じ時間に視聴しているわけではない。
傾向から言えば、若年層にターゲットを絞ったネット広告が好まれてきていることは事実だが、ネットではCMの後にヘイトスピーチビデオが流れるなど、ブランドイメージが棄損しかねないケースもあり、ブランドを重視するインターナショナル・アドヴァタイザーにとっては、テレビCMの安全性があらためて見直されていることも確かだ。
今年も新作ドラマやシリーズもののシチュエーション・コメディが話題を振りまいているなかで、”togetherness”の面からも、スポーツイベントが4大ネットの広告収入を牽引している。
全米のテレビ広告総収入は2017年の684億ドル(約7兆5240億円)をピークに、2018年682億ドル(約7兆5020億円)、そして2019年の予想は672億ドル(約7兆3900億円)と微減が続いているなか、アップフロントは新番組の内容だけでなく、テレビの広告収入全体を見極める大きなイベントであることは確かだ。