テレビ広告産業は機能しているか?

 

 今日のTV広告について簡潔にまとめている”Investopedia”の Dina Zipinアナリストの記事の全訳です。

 

 

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 TV広告の消滅が近いわけではない。しかしTV広告のビジネスモデルは大転換期にある。たしかにわたしたちはスーパーボウルの間、集まってCMを見ている。しかし、『マッドマン』に描かれたように、TV広告が世界を変えたり、少なくともある会社の売上をケタ違いに大きく変えるような広告の絶頂期は、あきらかに変化してしまった。 

 TV広告は今でも商品やブランドについて「気づき」を作り出す最も効果的な方法のひとつだ。しかし広告費はデジタル分野に移行し、メディア各社はソリューションを見出そうと躍起になっている。ここでTV広告がどう機能し、どう変化したかをまとめてみた。 

 

 タイミングが(ほどんど)すべてだ!

 American Time Use Survey Summeryによると、15歳以上の人は一日あたり平均約2.8時間TVを見ている。CMが放送された最初の月は、5%の売上アップが見込める。TV各局は、内容についてもCMの長さについても一定の制約をもっている。朝の子供向け番組ではビールの広告はありえないだろう。  

 広告予算が限られる小さなビジネスでは、ことに重要なのは自社のCMが放送される適切な時間と適切な価格だ。それはCMの放送回数のことではなく、放送されるごとにどれだけ多くの目に触れるかだ。ブランドとメディアはそれぞれの番組の視聴者層と販売する商品のマーケットをマッチさせようとする。番組の人気とCMを何回放送するかは、放送されるCMのトータルコストに大きな影響を与える。アメリカでは、一年で最高の視聴数を取るスーパーボウル中継番組内の広告はもっとも高い。2015年のスーパーボウルでは、NBCは30秒スポットCMに450万ドル(約4億9500万円)の値をつけた。ネットの番組やネットフリックス、HuluのようなストリーミングサービスによってTV広告モデルは揺れているが、スーパーボウルや五輪や『サタデーナイトライブ40周年』のようなライブイベントのCMは堅調だ。もし視聴者がリアルタイムで見たい番組であれば、CM枠は競争力を持つ。「プライムタイム」という用語は視聴率が最も高いピークタイムだったが、まとめ視聴やデジタルビデオレコーダー、ストリーミングの登場によって、「プライムタイム」の定義は以前とは異なっている。 

 

アップフロントとスウィープ 

 アップフロントシーズン(Upfront season)については聞いたことがあるだろう。それはマーケットがTVのCMの放送時間(とデジタル広告)を秋のシーズンが始まる前に買い付ける春先の前売りイベントのことだ。最初のアップフロントは1962年に行われ、いまでは毎年大手ネットワークが秋から放送する予定の番組をプレゼンし、CMスペースを売る。「スウィープ」(TV sweeps period)という期間もある。その年のある時に、その番組がスペシャル・ゲストを呼んだり、大きな「見るべき」事件を差し込む場合(ABCのシチュエーション・コメディ『モダン・ファミリー』のカムとミッチェルの結婚式や『ザ・グッドワイフ』で登場人物が死んだりする場合)のことだ。この期間のニールセンのデータはローカル局のCM価格を決める際に使われる。

 長年にわたって広告主やネットワーク局はニールセンのデータとプライスメトリック(CPM=cost-per-thousand、視聴者1000人にリーチするコストの尺度)を使ってきた。最近その測定値はそれほど重視されなくなってきた。どこでどのように人びとが番組を見るのかというテクノロジーが変化してきたからだ。アドバタイザーが、選択し、ターゲット化された視聴層にフォーカスしはじめると、番組の放送時間にはそれほど注意を払わなくなる。正しい時間帯ではなく、正しい視聴層を見つけることが最高なのだ。

 雑誌『ヴァラエティ』によると、企業は、80億ドル(約8800億円)から90億ドル(約9900億円)をプライムタイムTV広告に使い、90億ドル(約9900億円)から100億ドル(1兆1000億円)を毎年アップフロントに投下するという。何十年にもわたって、午後8時から11時の間に放送される番組がプライムなターゲットだった。いまでもこの時間帯は希望者が多いが、デジタルへの流れによって、この時間帯はそれほど熱望される時間帯ではなくなってきている。

 

デジタルへの流れ 

 DVRやTiVoによって、TVの広告モデルは大きく変化した。突然、視聴者はCMを見たいか見たくないかを選択することができるようになった。そして何千万人もの人々が早送りを始めた。2014年、タイム・ワーナーは、傘下のターナー・ブロードキャスティングのケーブルネットワーク(CNN,TBS,TNT)の国内広告収入が期待外れだったと語った。2015年第1四半期(1月~3月)には、ディスカバリー・コミュニケーションズが、広告収入は1%伸びたが、この時期の視聴率は低下した、と述べた。こうした数字はさまざまな多くの要因に拠っていた。しかし明らかにデジタルへの動きが事態を変化させている。

 保険会社オールステート・コーポレーションは、2013年から2015年までにTV広告の20%をデジタルにシフトする、と述べた。他の多くのブランドも予算のある部分を、エンタメ・オンラインを見る、もっと若い視聴者層をターゲットにしたオンラインビデオに振り向けようとしている。

 『ヴァラエティ』誌によれば、2014年~2015年にはアドバタイザーは、放送のプライムタイムに81億7000万ドル(約8987億円)から89億4000万ドル(約9834億円)を使った。1年前の2013年には86億ドル(約9460億円)から92億ドル(約1兆120億円)だった。ケーブルTVへの広告は前年の102億円(約1兆1444億円)から6%、あるいは577万ドル(約634億円)減少した。

 もうひとつの大きな流れは、NBCUniversal傘下のCNBCが2015年の第4四半期から、昼時間帯のビジネスニュースにはニールセンのデータを使わないと宣言したことだ。つまり、テレビ広告について言うと、新しいビジネスモデルは形成途上にある、ということだ。ネットフリックスのような企業は広告収入には頼っていないし、昔ながらのネットワークもアドバタイザーも自分たちのターゲットとする視聴者へリーチできる、新しくより良い方法を探し求めている。

 

ボトムライン

 最近は、『マッドマン』のように、ブランドがその商品を広めようとする場合、テレビ広告が最高の手段ではなくなってきている。スーパーボウルのようなイベントが得になることは変わりないが、企業はDVRやオンライン・ストリーミングや、またエンターテインメント・オンラインなどTVよりも携帯で見る若い視聴者層を必死で取り込もうとしている。しかしアップフロントやスウィープ週間のような伝統はまだ残っているし、TV広告も企業のマーケッティングプランの重要な一部である。