ストリーミング戦争はテレビ広告に有利?

 

 今回は苛烈な動画配信戦争とTV広告についての”MediaPost”のDave Morgan記者の記事 ”Paradox: Streaming Wars Will Be Great for TV Advertisers”の全訳です。

 

 いまわれわれは苛烈なストリーミング戦争の真っただ中にいる。Netflix、Amazon Prime、 Hulu、そして小規模なTubi、Fubo、そしてCBS All Accessなどが新たな動画配信契約者を勝ち取ろうと戦っている。 

 戦闘はエスカレートしている。Disney+、AT&TのWarnerMedia (HBOMax)、Apple (TV+)、そしてComcast/NBCUniversal (Peacock)などが新規に参入してくる。 

 こうしたストリーミングはサインアップを狙い、手早く契約者を獲得しようとしている。それは売りやすい値段でマーケットにあふれ、TVから視聴者をもぎ離そうとしている。合わせれば年1兆円をこえる資金がオリジナル作品と映画の制作に投じられている。 

 もしストリーミング各社が成功するとすれば、それはテレビ産業にとっては悪いことになるのだろうか? ことにテレビのアドバタイザーは視聴率が下がれば、見て買ってくれる人も減ると言うことなのだろうか?

 逆説的に聞こえるだろうが、わたしはちっともそれが悪い方へ転ぶとは思えない。ストリーミング戦争はひいてはテレビ広告ビジネスにとって得になると見ている。 

 ストリーミングの多くはノーCMか、ほとんど広告を付けていない。NetflixとAmazon Primeと、Huluの大部分はノーCMだし、Disney+もHBOMaxもAppleのTV+もノーCMだ。広告を付けないことがこうしたサービスのセールスポイントであれば、すぐにこれらのストリーミングが広告を付けることはないだろう。

 テレビから視聴者を奪い、アドフリーの動画配信サービスに導くことは、従来のテレビ広告はこれまでにまして重要で価値あるものになるということだ。なぜならばテレビ広告は、規模はどうであれ、残り続ける視聴者にリーチする唯一の方法だからだ。

 ほとんどのアメリカ人はストリーミングサービスにアクセスできていない。35%のアメリカ人は家でブロードバンドを持っておらず(Pewリサーチセンター調べ)、その20%はHD番組を見る最適速度を持っていないのだ。 

 ストリーミングサービスは贅沢品だ。ストリーミングサービスに契約できるだけの収入がある人びとの数は無限ではない。去年は4000万人のアメリカ人が無料食券制度を利用した。 

 地上波テレビは無料だ。ケーブルや衛星の低価格バンドル(複数チャンネル有料セット)も多くの低所得層家庭が契約している。そこでは人々はCM付のテレビ放送を見ている。こうした人々は豊かな人びとほどモノをたくさんは買わないにしても、彼らもさまざまな食品、クルマ、電話、保険、ガソリンなどを買う。 

 プレミアム動画広告の95%はテレビで、OTTは5%にすぎない。どこで視聴者がプレミアム動画広告を見ているかというと、大多数がテレビだ。そのリーチは大きい。アメリカでは3億人が一日に平均4時間テレビを見ている。 

 テレビはたくさんのCMを流している。一時間あたり16分から18分だ。OTTはゼロか、あっても少量で、1時間あたり2分から6分ほどだ。

 これから始まるサービスの多くも広告を付けていないのだから、OTTストリーミングサービスは視聴者減少によってテレビが失う分の広告を付け足すことはしないだろう。 

 テレビの世界では、少なければ少ないだけ価値が増す。テレビ広告業界では誰でも、希少価値が高価格であることを知っている。

 この数年を見ると、テレビのトップランキングの番組にとって視聴率の低下は、スポットのcost-per-thousand(CPT=視聴者1000人にリーチするコストの尺度)に基づく高価格によって相殺されてきている。それが市場の機能というものだ。 

 このようにストリーミングサービスによってテレビの視聴者が減少しても、ストリーミングサービスが広告増量となるわけではないので、テレビのCM収入は大部分、テレビに残り続けるし、高価格になっていくだろう。逆説的ではあるが、それがありうる現実だ。

 テレビを見ることが好きな人を見つける最上の場所はテレビだ。結局、ストリーミングサービスがその契約者を探すために、数千億円を投じることによって、テレビは利益を得るだろう。テレビ以上にその目的に合うメディアはないからだ。 

 このように、ストリーミング戦争は、テレビ広告にとって良いものになるであろう。