合併したViacomCBSの曖昧な戦略

 

 3年越しで進められていた、米3大ネットワークの「もっともよく見られているチャンネル」CBSと、映画の老舗Paramaout PictureやケーブルチャンネルMTV、Comedy Centralなどを保有するメディア企業Viacomの合併が12月4日に成立した。もともと両社は一つの企業だったし、2006年の分離後も持ち株会社National Amusementsのサムナー・レッドストーンという強烈な個性の元で連携してきたが、96歳と高齢になったサムナーに代わって実権を握った娘のシャリー・レッドストーンによって、ようやく合併が完成しViacomCBSとなった。

 3年越しで進められていた、米3大ネットワークの「もっともよく見られているチャンネル」CBSと、映画の老舗Paramaout PictureやケーブルチャンネルMTV、Comedy Centralなどを保有するメディア企業Viacomの合併が12月4日に成立した。もともと両社は一つの企業だったし、2006年の分離後も持ち株会社合併の背景には、NetflixやAmazon Prime Video、Disney+のようなOTT動画配信の隆盛に加え、AT&TとTimeWarnerの合併、DisneyへのFOXの一部アセットの売却など、メディア業界の一大変化に取り残されるのでは、という危機感があった。しかし、下の図でも明らかなように、合併したViacomCBSも、メディアの規模としてはけっして大きいとはいえない 。

 

 

しかもNBCとComcast、AT&TとTimeWarnerのように、通信キャリアをバックに持つわけでもない。

 では両社の合併の狙いはどこにあるのだろうか。

 ViacomCBSの戦略は、ドラマやエンターテインメントのコンテンツ制作に強みをもつ両社の特徴を生かして、OTT各社に多くのコンテンツを提供することだ。すでにパラマウントは人気の”Jack Ryan”シリーズをAmazon Prime Videoに提供しているし、CBSはコメディータッチのスリラー”Dead to Me”をNetflix用に制作している。この10月にはViacomがコメディーアニメ”South Park”のストリーミング権をAT&TのHBO Maxに5億ドル(約550億円)で売却した。両社の事実上のトップとなったシャリー・レッドストーンは「ViacomCBSを膨大なライブラリーを持つグローバル・コンテンツ・パワーハウス」にすることを目指すと語っている。また、コンテンツ制作に年間130億ドル(約1兆4000億円)を投下する予定だと言う。

 さらに、2014年にスタートしたCBS All Accessは、ネットワーク局としては初めてのOTTサービスだったが、いまでは800万件の有料契約者を抱えており、Viacomの広告付き無料OTTサービスPlutoも200万のMAUがついていて、スマートフォンをはじめとするあらゆるデバイスに自社コンテンツを届ける仕組みはすでに機能している。

 しかし、アナリストの多くは、両社の合併を「遅すぎる防衛的措置」と見ており、「資本を活かして、長期的なアセット価値を作り出し、魅力的なリターンを実現するには、現状の戦略が適切だと証明する必要がある」と厳しい視線を向けている。実際、8月の合併計画発表後、両社の株価は20%下落している。合併によって両社は5億ドル(約550億円)の経費を圧縮できると試算しているが、この多くがレイオフによる人件費の圧縮で、マーケットは、より長期的な成果の具体的な説明を求めている。

「ViacomCBSは、あまたの競争相手と戦えるだけの規模なのか?」と問われたシャリー・レッドストーンは、「スケールを時価総額でとらえるのは間違っている。スケールとは時価総額のことではなく、人々が見たいコンテンツを質的にも量的に作り出せる能力のことだ」と答えたが、合併したViacomCBSが通信大手やシリコンバレーのネット企業に身売りするのではないか、との憶測が早くも流れている。