Facebook、YouTube、Googleは、そろって5月7日にそれぞれのサイトから”Plandemic”と題する動画を削除した。削除の理由として各社は、動画に「新型コロナウイルスについて医学的に証明されていない内容が含まれていた」からだ、と述べている。
この動画”Plandemic”は、ジュディ・ミコヴィツJudy Mikovitsという反ワクチンの運動家のインタビューで、マスクは免疫システムを弱体化させ、コロナウイルスを感染させるため健康には有害だ、という訴えのほか、新型コロナウイルスは、ワクチン開発で大儲けしようとする人びとの陰謀で、インフルエンザワクチンを接種した人は、実はその時、新型コロナウイルスも一緒に注射されたのだ、などと語る26分の動画だ。WHO(世界保健機構)は医学的な知見に基づかず、有害な情報を削除するようGAFAに求めていて、今回削除されたのは、そのような数多くの動画の一つだ。
ミコヴィッツは、慢性疲労など現代社会特有の多くの症状の原因をワクチンに結び付け、その背後には巨大製薬会社と政治家の利害があるとする説を立てている研究者で、米国の医学陰謀論の中心人物だ。
新型コロナウイルスをめぐっては、数多くの虚偽情報がインターネットやSNSを通じてばら撒かれているが、それは疑わしいウイルス防御法や消毒液不足を煽る日常的な虚偽情報から、明確な政治的意図を持つ意識的な情報操作までさまざまだ。そして政治的イデオロギーも、価値観も分断された米国では、この新型コロナウイルスが容易にConspirasy Theory(陰謀論)と結びつき、トランプ政権もまたそれを利用しながら、再選への道を整えようとしている。
「陰謀論」には、ウイルスは武漢の感染症研究所で作られた人工的な生物兵器で、資本主義社会を葬り去ろうとする中国共産党のテロだ、というものなど、中国に関するものが多いようだが、4月を通じて最も多く流通したのが、「コロナウイルスはビル・ゲイツが作った」という「陰謀論」で、4月半ばには1日で8万回を超える検索があった。
マイクロソフトの創業者で10兆円を超える資産を持つとされるビル・ゲイツは、もともと財団を通して医療活動や防疫対策に巨額の私費を投じていて、2015年には、人類にとって最大の脅威は核戦争ではなく、ウイルス感染だ、と警鐘を鳴らしたことがあった。この時のTEDトークは、最近の数週間で2500万ビューを記録した。
米国の反ワクチン運動団体QAnonやAlt-rightは、この時の発言をとらえて「世界で最も裕福な男はこのパンデミックを利用して世界中の医療システムを乗っ取ろうとしている」と喧伝し、ビル・ゲイツはその目的のために今回の新型コロナウイルスを作り出し、ワクチンで大儲けをしようと企んでいるのだ、という陰謀論を拡散している。
しかし、この反ワクチン運動の背景には、最近ビル・ゲイツがメディアに頻繁に登場し、トランプ政権のウイルス対策の初動を失敗と断定し、Stay-at-homeやPCR検査の拡充、ワクチンの早期開発を呼びかける姿勢に対する攻撃がある。
ビル・ゲイツは『ワシントン・ポスト』(3月31日)に寄稿し、「アメリカは新型コロナウイルスの機先を制する機会を逃したことは間違いない。われわれの指導者の選択は、感染者を増加させ、経済をシャットダウンさせ、多くのアメリカ人に、最愛の人を死なせることになり、はかり知れぬ衝撃を与えるだろう」と書き、名指しこそしないものの、トランプ大統領のコロナ対策を失政と断じて真正面から批判した。またビル・ゲイツはトランプ大統領がWHOへの拠出金の停止を決めたことについても強い批判を繰り返している。
最近ではInstagramにタランティーノ主演の映画”Kill Bill”をもじった”#Kill Bill Gates”というハッシュタグが立てられ、数々のイメージカットが投稿された。
「陰謀論」の奥深いところでは、SNSやネットを使って、偽情報を拡散することで、トランプ再選に不利なものを徹底的に排除するという、選挙へ向けた「情報戦争」が展開されている。
※”Plandemic”の一部
https://www.youtube.com/watch?v=YqWUuOqf_TU
※インスタグラム
https://www.instagram.com/explore/tags/killbillgates/?hl=ja