トランプ大統領のプロパガンダTV局――One America News Network

 

 米国にはTVメディアの公平性、中立性はない。ことごとく党派性によって分断されている。

 Fox Newsは、「もっともトランプ大統領に近いメディア」と言われているが、それでも「矜持」とはいえないまでも、時折Fox Newsもメディアとしての独自性を見せることがある。そしてそれに業を煮やすトランプ大統領は、政権の言うがままになる宣伝メディアを求め続けている。Voice of Americaのゴリ押しによるトップ交代もそうだし、Twitterへの介入もそうだ。こうしたなか、小さなTV局がみずから御用機関に名乗りを上げ、トランプ政権はこのTV局をプロパガンダ機関に仕立て上げようとしている。

 

 去年10月、世論調査で51%が「トランプ大統領弾劾に賛成」という調査結果をFox Newsが報じた途端、この結果に腹を立てたトランプ大統領は「Fox Newsには失望した。われわれは別のニュースアウトレットを探す」とツイートした。そして肩入れしたのが、One America News Network (OANN)という小さなTV局だった。

 そして、今年の5月、大統領が新型コロナウイルス対策に効果があるとして常用している薬に対してFox Newsのアンカーが疑問を投げかけた途端、トランプ大統領はまたしてもFoxをおとしめるツイートを投稿した。「Foxはもう以前と同じではない。新しいニュースチャンネルをさがす。Foxは共和党やわたしに役立つことを何もしていないし、わたしを再選させようともしていない」。そして再びOANNを誉めあげた。

 さらに6月10日、CNNが世論調査で民主党のバイデン候補が14ポイントリード、と伝えると、トランプ大統領は烈火のごとく激怒し、CNNの世論調査を「不正」で「薄汚い」ものと決めつけ、CNNに調査結果の撤回と謝罪を要求した。この日、すかさずOANNは「われわれも大統領選挙の世論調査を公開する。それは大統領有利なものになるだろう」とツイートし、フロリダ州のみで行った世論調査でトランプがバイデンを最終的には53-47で破る、という調査結果を発表した。CNNがおこなった全米での調査とは明らかに質も量も異なるものだったが、トランプ大統領はOANNの調査結果を持ち上げた。

 

 One America News Network (OANN)は2013年7月4日に放送を開始した、サインディエゴにある小さなTV局で、プリント基板で財を成したロバート・ヘリング Robert Herring Sr.という76歳の人物がオーナーだ。当初は、ロイターのニュース映像に通信社電を1分の原稿にしたててアナウンサーが読むだけだった。視聴する世帯はFoxの3分の1の3000万世帯に満たないが、銃規制反対、中絶反対、移民反対の論調で超保守派の視聴層を取り込んできた。

 ヘリングは前回の大統領選挙でトランプが候補に名乗りを上げた当初から肩入れし、OANNはトランプ候補の集会と、支持者への演説のフルバージョンをLiveで伝えた最初のTV局となった。トランプ陣営の選挙運動責任者だったレワンドフスキもレギュラーで出演するようになり、政権発足後は、ついにはホワイトハウスのブリーフィングルームにも席を確保するまでになった。トランプ大統領のロシア疑惑にはほとんど触れず、トランプ政権を批判する発言に対してはオーナー自らが「発言はニュースで取り上げるな」とプロデューサーにメールするほどで、スタッフたちは「オーナーが実質的なニュースディレクター」だと言い切っている。

 

 OANNは共和党の集票マシーンであるCPAC  (The Conservative Political Action Conference)に献金を続けていて、ヘリングは「ワシントンでOANNの名前を覚えてもらうためだ」と言う。

 そのOANNが今回の”Black Lives Matter”抗議行動の中で俄然注目されることになったのは、バッファローの抗議集会で、警官に突き倒されて入院した75歳の老人について、OANNが「男性は極左Antifaの扇動者でわざと思いきり倒れたのだ」という虚偽の「陰謀論」を流し、トランプ大統領がその情報を拡散させたためだ。

 

 OANNはこれまでも新型コロナウイルスについてもさまざまな「陰謀論」を流してきたが、トランプ大統領は、この「トランプ大統領の最大のサポーター」を自認するTV局にますます肩入れし始めている。