Instagramが抗議行動の起点に

 

 Instagramと言えば、「インスタ映え」という言葉が示すように、フードやファッションや観光地やオシャレな背景の写真・動画など、政治や経済などの「現実」とは無関係なセルフィッシュな世界のソーシャル・メディアの代表だと思っていたが、5月に黒人男性ジョージ・フロイドさんが白人警察官に首を圧迫されて死亡し、それに対する抗議行動が全米で広がってから、Instagramは大きく変わった。

 

 NAACP(全米黒人地位向上協会)はこの1か月で100万フォロワーを獲得し、Black Lives Metter Los Angelesは4万から15万にフォロワーを伸ばした。

もともとTwitterやFacebookはユーザー年齢も上で政治的なコメントが多く、選挙運動などにも積極的に使われてきたが、米国のInstagramは、おもに白人若年層の使うソーシャル・メディアだという印象がある。けれどもそのユーザー数は圧倒的に多く、TwitterのDAUが1億6600万に対して、InstagramのDAUは5億人を超える。

 

 

 全米に広がった今回の抗議行動を見ていると、参加者はほぼミレニアル世代かそれより若いZ世代で、しかも白人の若者が多い。まさにInstagram世代だ。そして特定の組織に拠らない、自発的で緩やかな集まりだ。ある若い抗議活動家は「ここ数年の抗議行動は若い世代だし、ことに、フロイドさんの事件以来、インスタ映えするフードやファッション写真をスクロールしていても、殺されたフロイドさんのビデオや抗議活動の動画が目に触れる。この世代では、いま人種や差別の問題が、スキンケアやフィットネスと同じように日常会話のトピックになっているのだと思う」と述べている。

 これまで脇役だった「真面目な問題」がInstagramのメインストリームになってきているのだ。しかもハリウッドの俳優やセレブたちが、人種差別問題の映像、写真を自分のアカウントから拡散することで、この傾向に拍車がかかっている。米国では若者も「正義」についての自分の考え方や社会批判を積極的に口にするし、セレブリティたちは、自分の考えを述べて支持者を広げることが義務だと心得ている。

 

 今後もInstagramが社会問題の言論空間となりつづけるのか、元のように「インスタ映え」のセルフィーに戻っていくのかはわからないが、手元になじむメディアを自分たちのオピニオンの発信につけげていくSNSネイティヴ世代のしたたかさは、平和的な抗議行動を、もう1か月も続けている粘り強さとともに、新しい動きを感じさせる。