デジタル化を契機にモバイルTVが拡大


米国の地上波テレビ放送は6月12日、アナログ波が停止されデジタル放送に完全移行した。そして、その使われなくなったアナログ波を利用した携帯電話など簡易端末向けのテレビ番組配信サービスが一挙に活発化しそうだ。現在は電話会社の通信網を使った動画配信が主流だが、今後は完全デジタル化を契機に、デジタル放送で使われる帯域の一部を利用した携帯向け放送(米国版ワンセグ放送)や、これまでテレビ放送で使われてきた帯域を利用した新サービスなど、様々な企業が「モバイルTV」サービスに参入することになる。


中でもこれまでのアナログテレビ放送で使われてきた帯域の一部を政府からオークションで競り落とした米無線通信技術大手クアルコムの携帯電話向けテレビ配信サービス「Flo TV(フローTV)」が攻勢に出ている。ちなみに、クアルコムの入札額は3800万㌦(約38億円)。すでにサービスの構築に8億㌦(約800億円)を投入。同社によれば、6月12日以降、全米84市場に、今年末までに107市場に提供エリアを拡大する予定だ。ただ、フローTVの受信には専用チップが内臓された携帯電話に買い換える必要があることと、配信するコンテンツに限りがあることから、加入者の獲得は難航するとの見方も出ている。フローTV利用にはベライゾン社やAT&Tの携帯電話サービスに加入が求められ、別途、月額15㌦(約1500円)の追加料金が発生する。


また、FoxやNBCネットワーク系列局をはじめ、公共放送局などが加盟して創設されたモバイルTV連合「オープン・モバイル・ビデオ・コーリション(OMVC)」(米ワンセグ版)も今夏ワシントンのローカル局5社が実験放送を開始する予定。内容は放送と同じ番組を配信する“サイマル放送”で、当面は無料サービスとなる。


米調査会社ニールセンによると、今年1-3月期に全米で携帯電話を使って動画を視聴した人は携帯電話利用者全体の6%に相当する1300万人。昨年同期比50%増と急増している。

全米放送事業者協会(NAB)ではモバイルTVサービスが2012年以降、テレビ局に20億㌦(約2000億円)以上の副収入をもたらす可能性があると見込んでいる。