中東衛星テレビが米国内向けサービス開始

2010年から11年にかけて中東諸国で起こった一連の民主化運動「アラブの春」の克明な報道ぶりで知名度が上がったカタールの衛星テレビ「アルジャジーラ」が8月下旬、米国内向けニュース専門局「アルジャジーラ・アメリカ」を立ち上げた。「公平かつ事実に基づいた、そしてより深く掘り下げた報道」が同局のモットー。開設に先駆け、米地上波テレビABCネットワーク報道部門の上級副社長ケイト・オブライエン氏を社長にスカウト。キャスター群にはCNNやネットワークテレビの経験者などを多数採用。全米に12の支局を開設、スタッフ900人という大がかりな態勢で臨んだ。

初日は米西部で発生した大規模山火事やエジプト情勢など国内外ニュースを伝えたが、バングラデシュに進出した世界最大のデパートチェーン、ウォルマートにからむ建設問題やエジプト情勢の分かりやすい報告など、海外ニュースが光っていた(ロサンゼルス・タイムズ紙)という評価も出たが、プライムタイムの看板番組『アメリカ・トゥナイト』の初日視聴者数は27,000人と先行ニュース専門局の1%にも満たない苦しいスタートとなった。

 

派手な演出やカメラワーク、さらには専門家や著名人が声高に議論しあうニュース専門局お馴染みの番は一切なし。「ニュースが主役」を全面に押し出した淡々とした伝え方が、かえって新鮮味を感じさせるが、「テレビ報道は面白くなければ視聴者はついてこない」などと冷ややかな意見も上がっている。

アルジャジーラ・アメリカは今年1月、ゴア米元副大統領らが05年に設立した若者向けニュース局「カレントTV」を5億㌦で買収して発足したがCATV(ケーブルテレビ)や衛星放送などペイテレビ事業者の一部から配信合意を得られず全米における視聴可能世帯数約4500万世帯と、他ニュース専門チャンネルの半数以下という大きなハンディをしょってのスタートとなっている。

 

また、姉妹局アルジャジーラが反米的というイメージもありスポンサーに名乗りを上げる広告主が少なく、CM放送は1時間あたり6分ほどと他局の半分以下。しかもCMの中身は当面、自局の宣伝広告が大半という状況だ。広告業界には、「このままの広告収入では経営的に困難な状況に追い込まれるのは時間の問題」などと悲観的な見方もあるが、豊富なオイルマネーを保有するカタール政府が後ろ盾ということで資金繰りは一切心配ないとか。

<テレビ朝日アメリカ 北清>