劇場で公開された古い映画が米ケーブル局から大事なコンテンツとして見直されている。映画を番組編成するケーブル局は決して珍しくないが、最近ではその傾向がとみに高まっている。過去に何度か他チャンネルで放送された映画でも、一定の人気を得ることが出来るメリットもあるからだ。映画番組を、食べるとほっとする料理“コンフォート・フード”に例える向きもある。
2009年に封切られたコメディー映画『ハングオーバー!』の例をとってみよう。同映画はこれまでに人気有料チャンネル「HBO」や「シネマックス」で72回、“ベーシックチャンネル”(基本料金で見られるチャンネル群)TBSでは46回、姉妹局のTNTでも2回放送された。さらにDVD版やCATVなどが運営するオンデマンドにも提供されている。供給過多とも言える状況だが、昨年11月、若者向け人気局「コメディー・チャンネル」が再放送権を獲得放送したところ約100万人の視聴者を魅了した。同局レギュラー番組を上回る人気ぶりだ。
ケーブル局経営陣にとって映画編成にはいくつかのメリットがある。
最近では地上波テレビネットワークに対抗しようと、オリジナル番組の制作に取り組むチャンネルが少なくないが、問題はなかなかヒット作につながらないこと。米調査会社ニールセンによれば、02年以来ケーブル局が放ったオリジナル番組は1000本超。ところが貴重な放送外収入をもたらすシンジケーション市場に販売できる条件とされる4シーズンを生き残った番組はわずか13%に留まる150本という厳しい結果だ。
それに対して、「映画はリスクの少ない番組コンテンツ。しかもオリジナル番組などとは異なり番組宣伝の必要があまりないのも魅力だ」(米NBCユニバーサル番組配信担当社長フランシス・マンフレディ氏)。
テレビ界の栄誉とされるエミー賞受賞番組を量産しているHBOは、今後もオリジナル番組の制作を継続するが、映画も大事な編成の柱になっていくという。同社CEO(最高経営責任者)リチャード・プレップラー氏は、「映画を見る視聴者の75%がリアルタイムで視聴している」と、別なメリットを指摘している。CM飛ばし視聴を促すタイムシフト視聴を懸念する広告主にとっても魅力な番組だと言わんばかりだ。
若者向け専門チャンネルFXでは過去3年間にわたり最低1億㌦の興行成績を収めた劇場映画の7割の放映権を購入する積極果敢な戦略をとっている。